第7話 ムラっ気やまさんと大阪遠征。魂の3on3
あれ以上ワクワクするメールの文面を、僕は見たことがない。
『今度の非公認大会、一緒に出てみいひん?』
黒色師匠からだ。
どうやら大阪で大規模な3on3の大会が開かれるそう。ドラゴンスター3号店様主催の『
百人規模の大会になりそうだ。
メンバーは黒色師匠ともう一人。
前述した四天王の一角、ムラっ気の『やまさん』。
実力は折り紙つきだ。
そこで僕は一つの疑問を抱いた。
『なして僕?』
僕は決して強くない。
当時はスタバすら優勝したことのない雑魚だった。
もっと他にいい人選があっただろうに。
帰ってきた返答は——。
『賑やかし要因』だそう。
なるほど笑
自分の役割を理解した僕は、だがやはり勝ちたかったので鍛錬した。
平日はリモートで練習し。
チームメイトと構築を練りあげ。
きたる当日。
どこか張り詰めた緊張感が会場内を漂うなか、試合開始の合図がなされた。
第一試合。
対面は緑ウタ。
ヤマトにとっては激不利対面だ。
当時のウタは『要塞型』が主流であった。
アタック先を制限する8キッドを主軸に、7ルフィからの3ウタといった強力なブロッカー陣が展開され、こちらの攻撃を阻害する。
だからといってスローペースな展開を選ぶと、『私が最強』とかいうぶっ壊れカードで一気にリーサルまで持っていかれる。
決して多くはなかったが、使う人が使えば無類の強さを誇った。
実際、当時の環境下で行われた日本一決定戦にて、王座に君臨したデッキはサカズキでなく緑ウタだった。その強さがおしはかれるというものだ。
リーダーへ直接殴りたいヤマトとの相性は最悪で、十回やって一回勝てるかどうかといったところ。
だから僕は開き直ることにした。
『はいはい負け負け。いいもん! 強い二人が勝ってくれるもん!!』
ならばせいぜい楽しもう。
そう息巻いていた矢先のことだった。
「わりぃ、俺死んだ」
やまさんがまさかの敗北を喫したのだ。
ここでひとつ、やまさんの説明をしようと思う。
やまさんは地元界隈において、未だ破られぬ最高の戦績を誇る。あの黒色師匠でさえ霞むレベルだ。
サカズキ一強環境において、黎明期時代の赤紫ローでフラッグシップバトルを複数回優勝。8パックバトルでももちろん優勝。
黒色師匠もやまさんが参戦してくれたからこそ、僕のようなネタキャラをチームメイトに選んだのだろう。
だか、彼には欠点があった。
『ムラっ気』だ。
勝つ時にはとことん勝つのに、負ける時は目も当てられない。
理由は定かでないが、こたびもその特性が遺憾なく発揮されてしまった。
本日のやまさんは『下振れ期』だったのだ。
つまり初戦を勝ち抜けるのには、僕の白星が必要となる。
チームはいきなりの窮地を迎えたが、なんと僕はここにきて奇跡の勝利を収めた。
十回に一回を引き当ててみせたのだ。
そこからのチームは粘り強かった。
エースの黒色師匠が勝利することは前提として、やまさんの敗北を僕がひろい。僕が負ければやまさんが。
有効勝利を積み上げるも、結果はシブく予選五戦中、三勝二敗。
トーナメントには上がれないだろうと、帰り支度をしていたときのこと、黒色師匠が声をあげた。
「行けとるやん!!」
なんと僕たちは、予選通過枠最下位という形で決勝トーナメントに滑り込むことができたのだ。
どうやら僕らに勝ったチームが予選一位通過し、オポメントを引き上げてくれたようだ。
喜びも束の間、第一戦は先の予選一位通過チームだ。
早速のリベンジマッチというわけである。
僕の相手は赤ゾロ。アグロの単色リーダー。不利対面だ。先程はこの人に負かされてしまった。
だが僕も屈したままではいられない。
休憩時間中に、僕はやまさんからアドバイスを受けていた。
『もっとキャラに構ってみたら?』
反省点を踏まえて立ち回った結果、今度はどうにか辛勝を収めることができた。
やまさんのムラっ気はいぜん継続していたが、黒色師匠の安定したプレイングのおかげでなんとか一回戦は勝つことができた。
準決勝は僕の敗北をやまさんが補う形で通過。
なんとここまで全試合有効勝利という、3on3すぎる戦績で決勝まで進むことができた。
だが、タイミングが悪いことに僕の集中力はここで途絶えた。
極度の疲労により、緊張の糸がぷつんと切れてしまったのだ。
以下は決勝戦で実際に行われた会話である。
「べっちょないって言葉の意味、知っていますか?」
「豊中に住んでいらっしゃるんですか!? 僕城崎温泉こないだ行きました! 楽しかったなぁ」
「あ! この店内BGM好き!!」
戦闘中である。
チームは敗北した。
ほんまごめん。
初の3on3は準優勝、まずまずの大金星だ。
そしてこの大会をキッカケに、僕の覚醒が始まる。
次回『初めての非公認大会優勝、魔王討伐』に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます