第5話 最強!! 黒色師匠とスタンダートバトル決勝へ

 パパのLINEグループ内には、強者と評される者が四人いる。


 彼らはみな大会で好成績を残していて。

 わかりやすいところだと四人とも——。


『フラグシップバトル複数優勝者』だ。


 いわば地元四天王である。


(以下は書きたくてしょうがないだけなので、覚えなくていい)


 1人目。

 勝つ時は派手に勝ち、負ける時はド派手に負ける。ノッたときの奴は誰にも止められない。


 ムラっ気の『やまさん』


 2人目。

 tier1からハズレたマイナーデッキで環境を刺し、トリッキーな勝利をもぎ取る彼は、ときに隆々りゅうりゅうな上腕二頭筋で相手を威嚇する。


 胡散くささはプレイヤー随一『ドミネーター』。


 3人目。

 数手先の展開、相手の手札、思考。その全てを読み切り、勝利の方程式を解く超理論派。


 知的なメガネがキラリと光る『ダイジロウ』


 4人目。四天王の中では頭ひとつ抜けている実力を持つが、絶望的に運がない。そのせいで毎度辛酸を舐めさせられている。


 黒色使いの『黒色師匠』。


 今話の登場人物は、その黒色師匠だ。




 黒色師匠は文字通り黒色のリーダーしか扱わず、ことごとく場のキャラを枯らしていく。


 環境初期ではスモーカーや旧ルッチを握っていたそうだが、時は六段環境。


 つまりは奴が覇権を握っていた時代だ。


『青黒サカズキ』


 黒のカードでコストを下げながら、横に展開しつつ。青の強力なバウンス効果で敵キャラをデッキ下へ送るという、残酷無慈悲な強リーダー。


 要求値はとても高いが、『毎ターン手札交換』という付属効果が屈指の安定性をもたらしていた。


 サカズキは前段までの環境リーダーを、8割がた死滅させた。


 時代はまさにサカズキ一強の大海軍時代。


 そうしたtier神を、件の四天王最強格が愛用していたのだ。


 黒色師匠はサカズキ以前から黒を使っていたという土台もあってか、ピカイチの好相性をみせた。


 当時の彼はまさに敵なしだった。


 最強の黒色師匠を筆頭に、我が地元でもサカズキは幅を利かせていて。

 それはもう手のつけようがない惨状だった。


 ワンピカ初心者の僕も、完膚なきまでに蹂躙じゅうりんされていた。


 勝てなかった。


 心折れかけていたそのとき、黒色師匠が僕に声をかけたのだ。


『ヤマトならサカズキにやれるやろ』


 初めは意味がわからなかった。

 だが、黒色師匠の説明を聞くと納得せざるを得なかった。


 サカズキは強力だが、唯一の欠点がある。

 それは混色リーダーなため、ライフが4であったこと。


 一方でヤマトは、『キャラをあまり展開しない代わりに、リーダー自体がダブルアタックできる』という唯一無二の特性を持つ。


 ヤマトにとってサカズキとは。


『二回全力でパンチをするだけで、ライフがゼロになる相手』だったのだ。


 対してサカズキにとってヤマトとは。


『キャラ除去がサカズキの強みなのに、キャラを出してくれない』やりずらい相手なのだ。


 僕はそのことがわかっていなかった。


 黒色師匠のアドバイスはまさに晴天の霹靂へきれき


 その後のフリー対戦では驚いた。

 本当に黒色師匠に勝ってしまったのだ。


 ヤマトならtier神に勝てる!!


 カードゲームの奥深さと、ヤマトの脳筋さを目の当たりにした。折れかけていた魂が再燃し、僕は以前よりも100倍ワンピカが好きになった。


 好きは物の上手なれ。足繁くカドショへ通っているうちに、僕の実力もメキメキついていき。


 あくる日、『スタンダートバトル決勝』まで、駒を進めるに至った。


 32人規模のスイスドロー形式。

 決勝の舞台はとても緊張した。


 そんな僕を察してか、パパの子分たちからたくさんの声援をいただけた。


 対戦相手は四天王に及ばずとも、みなから一目置かれている強者、『豪州有袋類』さん。


 僕は全霊で強敵に向かった。


 結果は敗北だった。


 涙が出そうになるほど悔しかった。

 応援に応えられず、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。けれど、みんなが僕を慰めてくれたから、どうにか笑うことができた。


 対戦相手の豪州有袋類さんはボソリとつぶやく。


「おれ、優勝したのに。誰も誉めてくれないやん」

 あのときの横顔は、僕よりも何倍も悲しそうに見えた。


 次話『スーサイドスクワット』へ続く。

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