第4話 転売ヤーVS転売ヤー、パパとの出会い

 開店時間にホームのカドショへ行くと、すでに長蛇の行列ができていた。


 どうやらコレクター達に人気な、ポケカBOXの再販日のようだ。


 僕が遠巻きに眺めていると、一人の男性から声をかけられた。


「すみません、実は一人1ボックスまでの購入制限がありまして。ボックス代提供いたしますので、追加で購入していただけませんか?」


 代走である。

 唐突だったのと、そこまでして箱が欲しいのかという驚きもあって、深く考えずに了承してしまった。


 よくよく考えれば、それがいけないことだと分かったはずなのに……。



 列に加わり、僕の番がやってくる。

 これまた驚きだが、どうやら僕で最後の一つのようだ。


 そんなこともあるんだな。

 他人事のように思っていると、後ろで並んでいた方から甲高い怒声が上がった。


「ちょっと! この人会員カード持っていないじゃない! 持っている人限定ってホームページに書いてあるでしょ!」


 どうやら購入には会員証の提示が必要なようだ。僕は持っていなかった。

  

 お怒りになられていたのは妙齢の女性で、小さなお子さんを抱いていた。

 お子さんはまだ2つほどで、とてもではないがポケカを箱買いするような層に見えなかった。


 女性はお子さんの分と合わせて二つ、購入券を握っていた。


 そこでようやくピンときた。

 この人はポケカプレイヤーじゃない。


だと。


 店員さんはバカじゃない。

 もちろんそのことがわかってるので、女性へ懇切丁寧に断りの説明をした。


「会員カードは並び直しを避けるための処置です。この方は先ほど来られました。最後の一つであれば問題ありません」


「書いてあることと違うのはダメだと思うんですが? そうやって客を騙すのですか?」


「では、今から会員カードの制作を行なってもらいます。それなら問題ありませんね?」


「話になんない! 君、私たちに譲りなさいよ!」


 それはもうすごい怒りようだった。

 ギョロリと剥かれた鋭い眼光が僕を刺した。


 店員さんは僕のために、毅然きぜんと対応してくれている。


 だが、僕の方はそこまでポケカを買うモチベーションがなかったことと、女性とこれ以上関わり合いになりたくなかったのもあり。

 大人しく列から外れた。

 

 幼子の目の前だというのに、私欲丸出しで怒鳴りつける母の有り様にショックを受けたのもある。


 代走という後ろめたさも当然。


 平和な田舎でおきた珍事をうけ、狐に突かれたような気持ちになった。


 男性から預かっていた代金を返すついでに、どうしてポケカが欲しかったのか尋ねてみる。


「儲かるんで笑」


 僕は転売ヤーが嫌いになった。


 なんて不毛な時間だったんだ。


 僕は転売ヤー同士の代理戦争に巻き込まれてしまったのだ。


 だが、この不運は無駄でなかった。


「君、災難やったな」


 とある人物に声をかけられたからだ。


 皆に『パパ』と呼ばれいた彼は、いつもお子さんを連れてワンピカをしていた人だ。

 僕も見覚えがあった。


 後日知る話だが、パパは実力、人望共に申し分ない、界隈ではひと角の人物である。

 

 かつ、大組織のドンでもあった。


 地元ワンピカプレイヤーのほぼ全員を要するLINEグループ。そのボスとして、運営を行っていたのだ。


 先日のトッシーやカタクリくんも、メンバーの一員であった。


 今回の事件で認知された僕は、そのままグループに招待してもらえた。


 つまりだ。僕は四十人規模のプレイヤーと交流し、切磋琢磨する機会を得られたというわけである。


 僕の前途多難な激動のワンピカ生は、かくして始まった。


 次回『最強!! 黒色師匠とスタンダートバトル決勝へ』に続く。

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