第3話 僕のヤマトは二万円

 ついに待ちに待っていた日がやってきた。


『黄緑ヤマト』が収録されている、ONE PIECEカード第六段、『双璧の覇者』の発売日だ。


 喜び勇んでBOXを開封したが、当然ヤマトを地引できるほどことは上首尾にいかず。


 居ても立っても居られなくなった僕は、地元の田舎から遠路はるばる、大阪『オタロード』にやってきていた。


 理由は当然、『できる限り安く、ヤマトデッキを作りたい』がためだ。


 余談だが僕は万年金欠素寒貧すかんぴんである。


 あればあるだけ使ってしまうタチなのだ。

 給料日前、数千円の差が死活問題になってしまう。


 当時ヤマトのリーパラ相場は13,000円。

 とてもではないが、おいそれと出せる金額でない。


 だか、相場が落ちるのを待てるほど、僕は長生きしていない。


 血眼になってショップ巡りをしていたときのこと、ふと目についた『オリパ』があった。


 そのオリパは『見えるオリパ』と銘打たれていて。

 ようは残り口数と、あたり景品の残数が把握できる仕組みであったのだ。


 一番くじなどを想像すればわかりやすいだろう。


 アレはどの当たりが残っているのかが、一目でわかる仕様になっている。つまりくじの枚数が少なくなるほど、目当ての商品を当てられる可能性が高まるのだ。


 オリパは一口千円であった。

 残り枚数はちょうど20。


 残景品の欄に、彼女はいた——。


『黄緑ヤマトのリーダーパラレル』である。


 ヤマトのキラキラ加工は、広告だというのに燦々と輝いて見えた。(そんなわけない)


 残り20口。

 ヤマト以外にめぼしい当たりは残っていない。


 ヤマトの相場は13,000円。

 そこから導き出される結論は。


『13回以内に引き当てれば僕のアド』


 20分の13。けっして分の悪い勝負じゃない。

 むしろ根拠のない自身に僕は満ち溢れていた。


 だってこんなにも愛しているのだから。


 回そうかな、どうしようかな。

 葛藤すら置き去りにしていた。

 

 気がつけばガチャをしていた。

 回さずにいられなかった。

 購入中の僕は我を失っていた。

 

 ハズレ。ハズレ。ハズレ。

 連続するハズレ。


 僕の財布はみるみるうちに軽くなっていく。

 だがもう後戻りはできない。


 ハズレ。ハズレ。ハズレ。


 結果はお察しの通り。


 ヤマトを引き当てたのは、20回目であった。


 僕はここで一つ、致命的なミスを犯した。

 先ほど見えるオリパを、一番くじで例えたわけだが。

 これは決して僕のたとえセンスが優れていたわけでない。


 見えるオリパには、ヤマト以外にめぼしい商品がなかった。


 だれが当たりのなくなった『見えるオリパ』を買うのだ?


 なら、オリパにもあるはずだろ。


『ラストワン賞』が。


 僕はラストワン賞がヤマトであるという、景品表示法もニッコリのを見落としていたのだ。


 そりゃあ誰も回さないわけですよ。


 いいや違うね。


 誰からも必要とされていなかったヤマトを、僕の愛が救ったのだ!!!!


 僕のヤマトは二万円。

 他の子達より、ちょびっとばかし高いけれど。

 値段以上に愛している。


 そう思い込むことで、どうにか正気を保っていられた。


 ちなみに金欠になった僕は、ヤマトデッキが作れなかった。


 次話『転売ヤーVS転売ヤー、パパとの出会い』に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る