第68話 武田夏枝の嫌な予感

 ファミレスに入った私、武田夏枝と郡山さんは、ドリンクバーで好きな飲み物を取り、それを一口飲む。

 ちなみに、前回と違い今回注文したのは、話しながら軽くつまめるフライドポテトだけだ。


「夏枝さん。今回はどういうご用件ですか?」

「チャットでも言ったけど、私、明日帰るからさ。最後に最近どうかな~って」

「最近というと?」

「それはまあ~……」


 覚っくんのこと――とはさすがに言えない。

 だって郡山さん、普通に覚っくんのことただの同学年としか思ってなさそうだし。

 それに、覚っくんは覚っくんで色々無自覚だから。


「ほら、郡山さん生徒会役員だし、今何やってるのかとか」

「そうですね。文化祭の準備期間なので、すごく忙しいです」

「どんなことしてるの?」

「私の方は地域へのあいさつ回りですね」

「ああ。文化祭は地域の協力が大事だもんね」

「はい。責任重大です」


 責任重大と、言葉だけ見れば重たい感じがするが本人は変わらずフラットだ。

 それに、心なしか楽しそうですらある。


「ちなみに、覚っくんは何してるの? 家じゃあんまり教えてくれなくてさ~」

「真竹くんですか?」


 話題が生徒会に移ったことで、それとなく覚っくんの話をしてみる。


「最近は一緒にいることが少ないので何とも……」

「えっ、まさか覚っくんが何か悪いことしたとか?」

「あっ、違いますよ。純粋に私が文化祭の準備で忙しいだけです」

「そ、そっか……」


 嘘を言っているようには見えないので、ひとまず安心といったところだろうか。

 とはいえ、この状況は少しだけ気にかかる。


 私はもう少し状況を正確に把握するために、文化祭の準備について郡山さんに確認していく。


 そして、分かったことが一つ。


 郡山さんは今、文化祭の準備に夢中になっている。


 例えるなら、キャリアウーマンが仕事に集中したいから恋愛をしている場合ではない、もっといえば恋愛が眼中にないといった感じだろうか。


 状況は、私の想像していた以上にマズい気がする。

 だって、これはどう見ても恋愛に発展しないパターンだ。


 私としては鈍感な覚っくんではなく、郡山さんが自分の気持ちに気づくことに賭けている面が大きかった。


 それが、ここにきて二人とも恋愛とは別方向へ向いてしまっているときた。


「どうしたんですか、夏枝さん」

「――いや、何でもないよ……」


 心の中で頭を抱える私に気づくことなく、再び郡山さんが生徒会での充実した日々を語り始めるのだった。


         ※※※


 生徒会の話がひと段落した後、今度は大学生活や就活について郡山さんから聞かれ、そのことについて話をしてから、今日は解散となった。


 余談だが、郡山さんは公務員志望らしい。

 生徒会での話を聞いている限り、あまり向いていないような気もするけど……


「それでは夏枝さん。今日はありがとうございました」

「うんん。こっちこそ忙しい時にごめんね」


 最後にまた覚っくんのところに戻ってきたときに会う約束してから、私は素朴な少女と別れようとする。


「あっ、ちょっと待って」

「どうしましたか?」


 大切なことを言い忘れていたことに気づいて、私は郡山さんを呼び止める。


「何かあったら、絶対に相談に乗るからね」

「は、はい……?」


 私の言葉の意味をイマイチ理解していない風の反応を郡山さんが示す。


 だけど、ここでその意味を言っても仕方がない。


 これはあくまで保険だから。


 郡山さんが自分の気持ちに気づくのが遅くなった時の。


「それじゃ、郡山さん。今度こそ、またね」

「はい、また……」


 依然として釈然としない様子の郡山さんを置いて、私はその場から立ち去る。


 心配なら気持ちに気づかせるよう誘導するべきかもしれないけど、そんなことをしたところで二人とも本気で取り合ってくれないだろう。


「はあ~、恋愛って難しいな~」


 西日が照らす道を一人で歩きながら、私はそう漏らす。そして――


「おかえり、覚っくん。デートはどうだった?」


 先に家に帰った私は、玄関で待ち伏せして帰ってきた覚っくんにそう尋ねる。


「まずデートではないんですが……」

「女の子と二人きりは立派なデートです」

「いや、それはさすがに違――」

「で、どうだったの?」

 

 普通にウザイだろうけど、こればかりは聞かないわけにはいかない。


 後ろめたいことがないなら話せるだろうと脅し、今日のデートの全容を聞き出す。


「まあ、てな感じで――」

「はあ~、覚っくん」


 最初は文化祭の買い出しに付き合っていただけで、生徒会で協力できてない分の補填という言い分を聞いて安心しかけた。


 だけど、買い出しのついでに、バイト紹介と悩みを聞いてもらったお礼としてパフェとアクセサリーをプレゼントだあ?


 何さらっと女の子くどいてんだこの野郎――っ!


「あの、夏枝さん……?」

「ありがとう。洗いざらい話してくれて」

「ど、どういたしまして?」


 私は極力荒ぶる感情を外に出さないよう努めながら、自室へと戻る。


 そして、ため息を盛大につきながら思った。


 これは、郡山さんが相談してくる日もそう遠くないかもしれないと。

 

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