第67話 ギャルへの恩返し

 買い出しのために大型のショッピングモールへやって来た俺と心亜は、まずアクセサリーが豊富に集められたショップに足を踏み入れた。

 ここで、演劇のロミオとジュリエットで使う小道具を買うらしい。


「ねえ、覚士っち。これどう?」


 早速めぼしいものを見つけたのか、心亜がトルマリンのような水色の宝石を模したガラス細工があしらわれたネックレスを見せてくる。

 さすがに心亜が選ぶだけあってセンスはいい。だが――


「凪咲が着けるなら、こっちのほうが良くないか?」


 そう言って俺は、ペリドットのような山吹色に近い色合いのものを選ぶ。

 凪咲に着けるのはと言ったのは、凪咲がジュリエット役だから。ちなみに、ロミオ役は当然、我がクラストップのイケメン枠である勇生斗である。


「確かに、こっちの方が凪咲っちには似合いそう」

「心亜、完全に自分に似合うやつ選んだだろ?」

「あれ、バレた? つい、いつもの癖で……って」


 そこで何かに気づいたのか、心亜がからかうように笑みを浮かべる。


「私にこれ、似合ってるって言ってる?」

「ああ、そうだが」

「――っ、そ、そっか~」


 素直に褒めて見せると心亜が視線を俺から逸らす。

 自分で言っていて恥ずかしくなったといったところだろう。


「とりあえず、一端保留にして他の店も見てみるよな」

「う、うん。そうだね~」


 それから俺たちはショッピングモール内にある主要なショップを見て回り、その中で一番よかったものを購入した。


「今更だけど、これ俺たちだけで決めてよかったのか?」

「覚士っち。分かってないな~」


 普通、凪咲が選ぶのが一番のような気がするのだが、どうやら心亜曰くそれは違うらしい。


「覚士っちが選ぶからいいんだよ~」

「――っ、そ、そういうものなのか……」

「そうそう。それに凪咲っちは練習で忙しいから」

「えっ、今日もやってるのか?」

「うん。っていっても多分、家で練習してるくらいだけど」


 よく考えれば、凪咲も俺たちと同様、文化祭の準備をしながら平日は塾へ通って勉強する毎日を送っている。

 そうなると、演劇に力を入れられるのは自然と休日になってくる。


 普段、生徒会関係でクラスの方にはほとんど関われていなかったせいで、そこまで考えが及んでいなかった。反省だ。


「それより覚士っち。これからどうする~?」

「そうだな……」


 文化祭のための買い出しという目的は達成したわけで、このまま解散しても問題はない。

 ただ、今日は俺にとって心亜に夏の恩返しができる絶好の機会だ。


「よかったら、お茶でもしないか?」

「おっ、いいね~!」


 次の目的地が決まり、ショッピングモール内にあるコーヒーチェーン店へ入る。そして――


「ねえ、覚士っち。本当にこれ、奢ってもらっていいの?」

「ああ、もちろん」


 心亜が目の前に置かれた特大のチョコレートパフェ(約2000円)に対して、遠慮気味に聞いて来る。

 あれは確か夏休み最終日の花火大会だったか、帰り際にバイト代で何か奢ると約束をしていた。

 普段から心亜にはお世話になっているし、これはささやかな恩返しだ。


「どうした、食べないのか?」

「う、うんん。い、いただきます……」


 依然として遠慮が残っているのか、心亜が恐る恐る細長いスプーンでパフェを一口。

 そして、想像以上に美味しかったのか、最初の一口目以降、何も話すことなく黙々とパフェを頬張り続ける。

 こんなに美味しそうに食べてもらえるなら、奢った甲斐があったというものだ。


「あ~美味しかった~。覚士っち、ありがとう~!」

「よかったら、お代わりしてもいいぞ」

「それは遠慮しておきます(普通に太っちゃうし)」


 最後にボソッと聞こえた小言に、今度から女子に奢るときは量少な目で美味しいスイーツにしようと心に決めてから、店を出る。


「それじゃ、そろそろ帰るか」

「だね~」


 これがデートなら、ゲームセンターでひと遊びと行くところだが、これはあくまで文化祭の準備のための買い出しだ。


 それは心亜も分かっていることで、特に何かをすることなく俺たちはそのままショッピングモールを後にしようとする。しかし――


「覚士っち」

「どうした?」

「ちょっと買いたいものがあるから、もう少しだけ付き合ってくれる?」

「ああ、それは構わないが」


 そう言って連れてこられたのは、最初に訪れたアクセサリーショップ。


 店に入るなり、心亜は一つのアクセサリーを手に取る。


「これ、買おうとおもってさ~」


 心亜が手に取ったのは、最初に彼女が俺に見せてきたアクセサリー。

 どうやら、心亜的に割と気に入っていたらしい。


「そういうことなら、俺に買わせてくれないか?」

「えっ、それはさすがに悪いよ~」


 断ろうとする心亜をよそに、別の在庫を俺は取ってそのままレジであっさりと会計を済ませてしまう。


「ほれ」

「……」


 アクセサリーの入った紙袋を手渡すと、心亜がジトっとした目を向けて来る。


「ねえ、覚士っち」

「何だ?」

「今度、絶対恩返しするから」


 普段のつかみどころのない調子とは違い、力強くそう言ってから心亜は俺からのプレゼントを受け取るのだった。

 


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