第54話 26番目に俺を振った美少女
今まで30人の美少女に告白して振られた俺だが、その中には当然やんわりした振り方からキツイ振り方まで様々なものがあった。
そして、そんな振られ方の中で最も残酷な方法を取ったのが、
忘れもしない。
あれは一年の二学期が始まってすぐの頃。
夏休みの間に思うような成果を出せなかった俺は、三年生を中心に次に告白する美少女を探していた。
受験があるため勝率は低いが、ここで行かなければ二度と会えない可能性が高ったからだ。
リサーチの結果、俺は一人の女子生徒に目をつけた。
名前は
天野先輩と面識がなかった俺は、コネクションを作るために、彼女が所属する予定だという文化祭実行委員に入ることを決めた。
だが、それがきっと運の尽きだったのだろう。
「あれ、伝説の振られ屋の真竹くんじゃん!」
文化祭実行委員の最初の集まりの時。
集合場所に入るなり、一人の女子生徒が声をかけてきた。
ゆるやかなウェーブのかかった長い黒髪に、妖艶さを感じさせる大人びた目鼻立ちの美少女で、当然俺も彼女のことは知っていた。
それが当時の三年であり、文化祭実行委員長だった雨氷朔夜だ。
「君がここに入ったってことは、お目当ては七緒かな~?」
彼女が会って早々放った言葉によって、天野先輩へのアプローチ計画はあっさりと破綻。
周囲から警戒される形となり、とても実行委員としてやっていける状態ではなくなった。
ただ、一度実行委員になってしまった以上、途中で投げ出すことはできない。
俺は文化祭が終わるまで地獄を覚悟した。しかし――
『あっ、真竹くん。クラスの出し物決まった~?』
『真竹くん。よかったらこれ手伝って~?』
どういう訳か、雨氷先輩は度々一人でいる俺に声をかけてきた。
最初は不用意な発言で俺を孤立させたことに、罪悪感を覚えてのことだと思った。
だが、文化祭当日――
『真竹くん一人? なら一緒に回ろうか?』
案の定一人で文化祭を回っていた俺に、またしても雨氷先輩は声をかけてきた。それも周囲に誰も連れずに一人で。
ちなみに言っておくが、雨氷先輩はかなりの人気者だ。
本来、俺のような人間と一緒にいるような人ではない。
そんな人が、ただの罪悪感だけでここまでするだろうか?
少しだけ期待してしまった。
何せ美少女が自らこうして俺に近づいて来ることはなかったから。
俺は雨氷先輩の提案を受け入れ、一緒に文化祭を回った。
美少女と二人きりで回る文化祭は、本当に楽しかった。
だからそれだけに、募る想いは人一倍強くなって――
「真竹くん。話って何かな?」
2日間の文化祭が無事に終わり、すべての後片付けが終わったところで、俺は雨氷先輩を呼び出し告げた。
「雨氷先輩。好きです、俺と付き合ってください」
思いを伝えると、雨氷先輩は薄い笑みを浮かべて答える。
「そろそろ告白してくる頃だと思った」
薄い笑みは嘲笑だった。
俺はすぐに思い至った嫌な想像を誤魔化すように尋ねる。
「それは、どういう意味ですか?」
「えっ、そのままの意味だけど?」
「俺にはその、よくわかりません」
「ふ~ん」
雨氷先輩が何か品定めするように俺を見る。そして――
「ねえ真竹くん。今まで楽しかった?」
「はい、すごく」
「そっか。私もすごく楽しかったよ――真竹くんが勘違いしてくれてるって」
「――っ」
嫌な予感が当たってしまった。
雨氷先輩は俺をその気にさせて楽しんでいたんだ。
「あれ、そんなに驚かないんだ?」
少し残念だなと、そう軽く笑ってから雨氷先輩は続ける。
「わざわざ答えるまでもないけど。ごめんなさい。真竹くんとは付き合えませ~ん」
「――っ、わかり、ました……」
「あれ、そこはそんな顔をするんだ? じゃあ、お詫びに一ついいこと教えてあげる」
そう言って雨氷先輩は俺の耳元まで口を近づけると言った。
「最初に君が狙ってた七緒。好きな人いるから。それも両想い。だから最初から脈なし。てことで、私と遊べて良かったんじゃない?」
いい思い出になったでしょうと、最後にそう言い残して雨氷先輩は俺の下を去って行った。
これが26番目に俺を振った美少女との苦い思い出。
ちなみに後日談だが、あの後従姉の夏枝さんに振られた勢いで、卒業式の日に天野先輩に告白してきっちり振られた。
おかげでその後、ずっと気持ちを伝えられずにいた両想いの相手から天野先輩は告白されて、めでたく結ばれた。
※※※
「ねえ真竹くん。まだ可愛い子に告白、続けてるの~?」
約一年ぶりに会った雨氷先輩は、相変わらずの妖艶な薄い笑みを浮かべながら、俺の方を見る。
「いや、そういうのは止めたので」
「えっ、てことは彼女できたの? もしかして横の二人のどっちか?」
俺は横にいる郡山さんと潤さんを守るように前に出る。
「違います。二人はそういうのではありません」
「え~、そうなの~?」
「――」
試すような笑みを浮かべる雨氷先輩。
対して俺は、彼女から目を逸らさないようにするだけで精一杯だ。
「あの、雨氷先輩」
「あれ、どうしたの藤川ちゃん」
状況を見て何かを察してくれたのか、藤川が俺と雨氷先輩の間に割って入る。
「もうじき打ち合わせの時間ですので」
「え~、もうそんな時間なの~? せっかく真竹くんにまた会えたのに~」
不満そうにそう言ってから、最後にと雨氷先輩は俺を見る。
「真竹くん。また今度ゆっくりお話しましょうね~?」
「いえ。結構です」
「うわ~、冷たい~」
言葉とは裏腹に楽しそうに笑いながら、雨氷先輩が去って行く。
「覚士さん、大丈夫ですの?」
「ああ……っ」
「覚士さん……っ!?」
どうやら、雨氷先輩との会話が想像以上に心にきていたらしい。
俺はその場に膝をつくと、オープンキャンパスが始まるでそのまま立ち上がることができなかった。
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