犬は猫になれず

内藤

犬は猫になれず

 犬は猫に恋をした。

出会いは主人がいつもより遅い二十時に仕事から帰宅し散歩に出かけたときだった。

秋の涼しい風を浴びながら暗く静かな公園の中を歩いていると、一本の街路灯がベンチを照らしていた。

猫はそこで眠っていた。

気づかなかった犬は前を通り過ぎようとすると、こちらに気づいた猫は驚いて起き上がり急いで逃げて行った。

その時に見た猫の透き通った宝石のような瞳に犬は惹かれた。

 犬は名前も知らない猫に恋をした。

 翌日、主人がいつもの時間に帰宅し散歩に連れて行こうとしたが犬は駄々をこねて昨日と同じ時間に散歩に出かけた。

毎日そこにいるとは限らないとかそんな事は考えていなかった。

公園に着くと猫は昨日と同じようにベンチで眠っていて、こちらに気づくと急いで逃げて行った。

再びその瞳を見た犬は満足感に浸った。

それから毎日同じ時間に例の公園に向かった。

猫は変わらず、見ることが出来るのは一瞬だったが犬はその一瞬が至福だった。

 だが、ある日を境に猫は公園から姿を消した。犬は心配した。

姿を消した後も散歩の時間が前に戻ることはなかった。

やがて主人は以前の仕事を退職し、犬と共に東京から青森に引っ越して数年が経った。

そのころには犬は猫の存在を忘れてしまっていた。

主人の在宅勤務が終わり二十時に散歩に出かけるといつか見たような猫が三匹の子猫を連れて防波堤を歩いていた。

先頭を歩く猫の瞳を見ると犬は公園の猫を思い出した。

 あの猫は今、何をしているのだろう?そう考えるようになった今日この頃。


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犬は猫になれず 内藤 @entelP

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