三人娘

 異界の穴の中、崖際の少し広い草原で女の子らしいドレスに似た洋と和の混ざったような服着ている三人の少女が昼飯を食っていた。


「美紀ちゃんのメシはマジでうまいね」

「ええ、凄く美味ですわ」

「亜紀姉、魔紀姉、ありがと」


 三級賞金稼ぎの綺堂家の三姉妹だ。長女の亜紀は長髪の人族で、次女の魔紀は褐色の魔族で、三女の美紀は金髪のエルフ族らしい。


「そう言えば最近、来訪者が増えて来たらしいわね」

「って事は来るか?大規模侵攻が?」

「稼げなくなる」


 雑談しながらそんな話が出てくる。来訪者と言うか難民なのだが、彼らが増えるという事は、異界の穴の先で大きな戦争が起きている証拠だ。月一(300日)の一度のペースでやってくる宇宙規模の戦力が現れる前兆とも言える。


「普段の個人や小規模の侵攻なら楽に稼げるんだけどな」

「大規模侵攻が稼ぎになるのは強者の話、わたくしたちみたいな底辺賞金稼ぎには厳しい時期になるわね」

「うん、手取り減る」


 侵略者は強いわ、大量に来るから市場原理で取引価格は下がるわで実力がないものからすると眉を顰める状況になるのだ。なのでそう言う時には、お零れを探して戦場を走り回らなければ行けない。



「それにな、ここの狩場が壊れたら……」

「あら?」

「来た?」


 亜紀が剣を引き抜いており、先には2~3m程の巨人が肩から横腹にかけて切断されて消滅しかかっていた。


「あっさりだな」

「そこのあなた、大丈夫ですの?」

「腰抜けてる」


 逃げて来たであろう少年は、腰が抜けて動けないようなので回収しようと三人が動き出すが、崖から這い上がってきたり、茂みから出てきたりと数の多い白い巨人。


「おお?量産タイプか?」

「そうみたいですわね。ではわたくしも」

「いつも通り」


 頭部には顔のように見える白い丸が三つついていて、全身真っ白でじんわりと白く輝くその体には生命が満ち満ちており、その大きさはさまざまあり2~5m程だ。



「じゃあ楽しませてな!」

「はしゃぎすぎは禁物ですよ、姉様」

「ん、打ち洩れは任せて」


 亜紀は瞬動で近づき、少年を取り込もうとしている巨人を斬り飛ばす。それを狙って近くの巨人が二人を狙うが、魔紀のリボルバーが火を噴き爆炎に包まれる巨人。


「さっさと行け!邪魔じゃ!」

「うわぁ!」


 亜紀は少年を掴み二人の方に投げる。そして振り向き際にもう一本の剣を引き抜き巨人を斬り倒す。


「エネルギー体。回収が難しいな!」


 手を大きくさせた巨人の薙ぎ払いで地面が抉れ木が倒れる。だがその瞬間に腕の上に乗った亜紀が巨人の頭部を輪切りにしていた。


「核はなし、作り込みが甘い、雑兵か」


 溶けるように消えていく巨人を足場に、動きの鈍い巨人を次々に葬っていく亜紀の姿を後ろから見る少年は唖然としていた。



「あいつらを一方的に……」

「スペック高いだけ。中身がない」


 少年の言葉に美紀が答える。


「美紀の言う通りね。性質が厄介でエネルギーが高いだけよ。粘土を適当に固めて作ってるのと変わらないわ」

「いやそうだろうが、違う……」


 魔紀が銃撃で的確に巨人を処理しながらそう言う。実際巨人たちには知能と言うものが無く、ただ暴れるだけに徹しているのでそこまでの脅威ではない。精々か体を変形させたり、触れた相手から生命力を吸い上げ、強化と増殖を繰り返すだけだ。



「へぇ~?」

「ん?」

「あ、あれだ!あいつだ!」


 数が減ってきたが、急に光が集まり一体に集まり巨大化し始める。それとは対照的に周囲の木々は力を失い枯れ始めた。


「いびつ……」

「生命の記憶を使ってるみたいね」


 人型だが、色んな生物が混ざったような巨人が出来上がり、その拳が亜紀に振り落とされた。


 だが――


「手伝う?」

「いや姉様の邪魔になるわ、回収に専念しましょう。怒られてしまいますわ」


 拳が弾かれ仰け反る巨人を見て、呑気に回収瓶や映像機器を取り出す二人。



「逃げないでね?」


 後ずさってしまう少年にそう忠告する美紀。


「貴方じゃ生き残れないわよ」

「大切な収入源。うん、今夜は豪華になるかも?」


 それを着た少年はゾッとする。奇跡的にここで逃げ切っても後の生存は絶望的だし、かといって彼女たちについて行っても何かしらの収入源に変えられてしまう。


「な、なんなんだお前らは、なんなんだこの世界は……!」

「あら?ご存じない?」

「来たのはそっちなのに?」


 不思議そうにしている二人。


「資源が欲しくてこちらに来たのでしょう?」

「生き残りたくて来たんでしょ?」


 みんなそうだ、この世界に侵攻してくるすべての世界はそれを求めている。目減りし続けるリソースを、寿命を延ばし、先送りさせるためにやってくる。


「でもね。見ての通りの世界よ」

「あるのと使えるのは別」


 ここには彼らが求めるすべてがある……が、それが使えるかどうかは別の話だ。過酷な環境、蠢く強者たち、弱者を徹底的に間引く地獄のような世界だ。



「そういうこ……」

「あと一体?」


 影が差し、あと一体の巨人が空から降ってくる。それにより大地が震え、周囲が散らかる。


「危ないですわね」

「死んでない?」


 二人は即座に退き、美紀は掴んでた少年にそう言う。


「はぁ~、うるさいですわよ」


 そして叫び攻撃しようと動き出した巨人に魔炎弾を撃ち込む魔紀。それにより三発の弾丸が胸、首、頭部に当たり爆炎に包まれる。


「硬い、面倒」

「ですわね」


 上手く刺さらなかったのか、仰け反るだけで傷もすぐに修復された。


「では、これで行きましょう」


 エネルギーを込めた『源弾』ではなく、物質であり実体のある『実弾』を込め撃ち込む。それにより巨人は崩壊するように燃え上がり朽ち、蛇のようにばらけ襲い掛かってくる。


「ん、邪魔」


 だが美紀がナイフを振った瞬間に複雑な強風が吹き荒れ、それに乗せた乱斬で斬り刻まれた。



「姉様も終わったみたいね」

「遊びすぎ」


 その後すぐに亜紀の方で巨人が倒された気配を感じ、それを確認した二人は適当に戦利品を回収して行くのだった。


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