影
ギルド支部長秘書兼受付視点
「最近また出たんだって?例の影みたいな奴」
買い物の休憩にと立ち寄った酒場でそんな話題で盛り上がる厳ついなりをしながら昼間から酒を食らう冒険者が居た。
その冒険者と店主によれば、辺境の村などで目撃、及び討伐報告のある影が、この街の周辺にも現れたのだという。どこから現れたのかもわからず、倒したところで魔石のような黒い石粒を落とすだけで消えてしまう何か。どこかの研究機関が調査をしているという噂もあるが定かではない。
目撃報告の殆どは人の形をしていたというものだが、中には獣のような姿をしていたという報告もある。報告に共通することと言えば、黒い靄のようなものを纏い、人も魔物も見境なく襲っているものの大した攻撃能力はない様でその悉くが返り討ちにあっている、という点か。
「森の探索も兼ねて、久しぶりに狩りにでも行きましょうか。……腕がなまっていなければいいんですけど。店主、御馳走さまです。お代、ここに置いておきますね」
残っていた果実水を、一息の飲み切るとテーブルに鉄貨数枚を置き、店を出る。買い物袋を提げ、向かうのは職場兼自宅のギルド支部。王都に比較的近いといっても強力な魔物が多いわけでも、珍しい特産品があるわけでもないこの街は、言ってしまえば寂れている。こうしてギルド支部長秘書兼受付の私が雑用の買い出しを任されているのも、人手が足りていないからだ。ここ数週間休みらしい休みがない。偶には周辺警戒という名のもとに、羽を伸ばすのも悪くはないだろう。久々にまともに体を動かせると思うとギルドへ向かう足取りも軽くなるというものだ。
「只今戻りましたー。あれ、支部長は?いつもならこの時間、書類仕事に飽きてこの辺りうろうろしてる頃じゃない?」
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