第6話 相談役


 ロザー・シェレフをさらに進んでいくとスラムとは様子が変わり、一見まともな建物が並ぶ様になる。かつてマフィア達が隆盛を誇った頃、いかがわしい商売を回す為に建てた事務所やセーフハウス、なんなら庭付きの家まであるそこは由来を気にしなければアイベリーの住宅街とそう変わりはないだろう。

 むしろ今のマフィアのボスはちゃっかりアイベリーの富裕層達と同じ地区に居を構えているそうだ。後ろ暗くともビジネスはビジネス、儲かるのだろう。


 ジョーによれば、これから案内されるのはハーディというディアボロの相談役の地位にある人物らしい。

 詳しい年齢はわからないが間違いなく70は超えている老人で10代で既にディアボロの一員であったそうだ。

 比較的穏健派でありジョーの直属の上役が無茶な集金を咎められ連帯責任で末端構成員のジョーまで処罰が及びそうになったところ、「悪いのは指示を出した者だ」と取りなしてくれたそうだ。


「だからよ……俺にとっても恩義のある人なんだよ、ハーディさんは。無茶をしないと約束してくれよ、な」

「わかっています。取材するだけだと言っているじゃないですか」


 ジョーの不安も先ほどのジャニスの所業からすればもっともなことだ。そうこうしているうちに目的の場所に着いたのか「ここだ」とジョーは足を止める。視線の先には小さな庭つきの木造の平屋があった。


「訪ねてもいいか聞いてくるからよ。ここで待っててくれよ。ついてこないでくれよ!」とほとんど泣きそうな顔でジャニスに念を押すとジョーは小走りで建物に向かっていった。


 ジョーの背中を見送りジャニスが「隠居するにはちょうど良さそうなサイズの家だなぁ」とか「詰めていても数人かなぁ」と考えていた。

 ジョーが玄関から顔を覗かせた強面の男と短くやり取りしてしばらくして手招きをした。


「会ってもいいってよ」

「それでなんと伝えたんですか?」

「リ、リトルデビルが話しに来たって」


「余計なことを」とジャニスは溜め息を吐く。


「取材だっていったじゃないですか! リトルデビルなんていったら警戒されてしまいます!」

「お前のことなんて伝えたらいいかわからなかったんだよ!」


 そういえばジョーには名刺を渡していなかったし雑誌記者とも名乗っていなかったなと思い出したジャニスは「もういいです」と肩を落とした。

 息を1つ、フッと強く吐き気合いを入れるとジャニスは強面の男が開けて待っていた玄関ドアをくぐった。

「ボディチェックを」と強面の男が短く伝え、素早くジャニスの体を探っていく。

 いやらしい手つきなら捻り上げてやろうかと考えていたがそういうことはなく、下っ端連中との雰囲気の違いにジャニスは警戒心を強めた。


「ケースの中身を」と男に伝えられたジャニスは「あ~」とばつの悪そうな顔になる。

「見せないとダメですよね」と渋々手錠の鍵をポケットから取り出しケースを開くとそこには手土産にと購入しておいた緩衝材に包まれた酒瓶と……重し用のレンガがギッシリと詰まっていた。

 数秒、沈黙が流れる。ジャニスは「手土産に結構いいお酒を一応買ったりしたんですけど」と言い訳のようなことを呟くが「ケースは預かろう」という男に「はい……」と酒瓶だけを取り出してアタッシュケースを手渡した。


 男に従って廊下を進み突き当たりの部屋に通されるとそこには鋭い眼光をした老人が待っていた。


「はじめまして、お嬢さん。 それともリトルデビルと呼ぶべきかな?」

「Criminalの記者、ジャニスです。アポも無いのに時間を取っていただき感謝します」


 リトルデビル呼びには反応せず、ジャニスは堂々と自己紹介をした。老人は少し顔をほころばせる。


「噂に違わず肝が据わっている。儂はアーロン・ハーディ、ディアボロの相談役などと呼ばれているよ」


 名乗りを返しアーロンが差し出した手をジャニスは油断なく握り返した。

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