第214話
「・・・・浅見さんは、希和とお付き合いされていたんですよね?」
自分でもこんなこと言うつもりはなかった。
それなのに何かが振り切れたかのように、私は浅見先輩の核心に迫ろうとしていた。
「え・・・・っ」
急に放たれた言葉に、浅見先輩の瞳が大きく揺れた。
「どうして知って・・・・、え?木嶋くんから聞いてたの?」
「いえ・・・・」
私は小さく首を振る。
希和に聞いたわけじゃないことを伝えると、浅見さんは両頬を手のひらで覆った。
「私、わかりやすいのかな。・・・・うん、そうなの。実はね、木嶋くんとは昔付き合ってたの」
まさか私が高校のときの後輩だとは思いもしない浅見先輩は、自分の話から私が勘付いたのだと思ったようだ。
「高校1年生のときから大学卒業するまでの間の学生時代にね。でも、だからホント、もう10年も前のことなんだけどね」
「・・・・どうして別れたんですか?」
震えそうな声を抑えるように、必死で平坦なトーンで禁断とも言える疑問を投げつけた。
「どうして浅見さんは希和と別れて他の人と結婚したんですか?やっぱりご両親の、病院の為に、好きでもない人と無理矢理・・・・」
「違うの」
そうじゃないのと、浅見先輩は私の声を遮った。
「確かに私が結婚したその彼は、両親が勧めた相手だった。両親は医師を目指してもいない希和では病院を継ぐことはできないことと、希和の父親が自殺していることを理由に交際を反対したの」
「えっ?!だってそんな、それは希和のせいじゃないのに・・・・!」
希和は何も悪くないというのに、そんな理由で反対するなんてあり得ない。
跡継ぎになれないから、という理由ならまだわかる。
だけど希和の父親のことはべつに犯罪を犯したわけでもなければ、希和にはどうすることもできなかったことだ。
そんな理由で交際に反対するなんて・・・・
「理不尽だよね。だからって希和とは何も関係ない話なのに。私もそれを聞いたときには最低だって罵倒した。希和のことを認めてくれず、私の為だと言いながらも自分達の都合を勝手に押し付けてくる両親と、何度も何度も激しく衝突した。ついには入院してしまうまで、成人していたとはいえまだ学生で幼かった私の心は疲れ果ててしまったの」
入院した浅見先輩は、両親と会うことを一切拒んだ。
そして、毎日のように会いに来てくれる希和に対してまでも、次第に心が拒否するようになっていった。
交際を反対されていることは希和も気付いてはいたけれど、まさか自分の父親のことも原因のひとつだとは希和は思いもしなかっただろう。
当然のことながら、浅見先輩もそのことを希和に話すことなんてできなかった。
すごく好きなのに、自分1人ではどうすることも出来ないもどかしさ。
そんな弱い自分に変わらない愛情とやさしさを懸命に与え続けてくれる希和に対して、何も応えてあげられない浅見先輩は次第に追い詰められていったのだと言う。
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