第215話

そんな疲れ果てた心を癒していったのが、驚くことに、両親が勝手に決めた婚約者だった。




「もちろん最初は拒絶したの。担当医でもないのに時間が空くたびに病室にやって来て。嫌悪感しか抱かなかった。だけど・・・・」




浅見先輩はそこで一度、ふぅっと一息ついた。




「一回り以上も年上の彼にとって、子供だった私の心を懐柔させるのは容易かったのかもしれない。気づいたら・・・・木嶋くんより彼といるときのほうがひどく安心している自分がいたの」






ーーーーそれって、






「心変わりしたってことですか?」





浅見先輩が?




高校時代の2人をよく知っているけれど、側から見てもお互いにすごく愛し合っているのがわかった。



杏奈も言っていたけれど、それは永遠に続くと思うほどに。



だから、親に言われて無理やりだったのではなく、浅見先輩の心変わりだなんてそんなこと、とても信じられないけれど。





「今でもわからない。心が疲れたと言っても、木嶋くんのことが好きな気持ちに変わりはなかったの、本当に。だけど、」




希和への想いを口にしながら、苦しそうに顔を歪めた。




「好きなのに。ずっと一緒にいたかったのに。だけどあの時の私にはどうしても、木嶋くんと2人でいる未来が想像できなかった」



「・・・・っじゃあ、その婚約者の方とは想像できたって言うんですかっ?」




思わず責めるようになってしまった私の言葉に、浅見先輩はほんの少し口を閉ざしたあと、





「結果的に、希和と別れて自らその人との結婚を選んだのだから、そうだったんだと思う」




言葉を選ぶように慎重にそう答えた。





「でもそれは・・・・!随分と大人だったその婚約者と違って、2人がまだお互いに学生だったからだけじゃないんですか?」




だからまだ、結婚とか将来のことなんて見えなくて当然だった。




「希和のことも好きでいながら、同時にその人のことも好きになってしまったっていうんですか?そんなのって・・・・っ」




もう遠い過去のことだというのに。



2人が別れたからこそ、今があるのに。




どうして私はこんなにもムキになってるんだろう・・・・

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