第211話
「私には巨額の慰謝料が支払われる形で、揉めることもなくあっさり離婚が決まったの。一応7年も夫婦やってたんだけど、呆気ない終わりだったな」
浅見さんは力なく笑った。
「1人になって、お金だけは余るほどあって。この先どうしようって考えたときに、自分のお店を持つことを思いついたの」
「・・・・・・・・」
「安易な考えだって思ったでしょ?でも本気でそう夢見た時期もあったし、実際大学でもその分野を専攻してるんだよ」
「そう、なんですか・・・・」
自分から振った話だったけど、正直お店を始めるきっかけなんてどうでもよかった。
そんなことよりもやっぱり疑問に思うことは、結婚に至った理由だった。
そんな最低な男性と、どうして結婚したのか。
もちろんそんな人だとは結婚前は知らなかったんだと思う。だけど、親が決めた相手だということは、恋愛感情があっての結婚ではなかったということだ。
どうして親の言う通りに結婚してしまったの?
なんで希和と別れてまでーーーー・・・・
浅見先輩のことがわからない。
わからないけれど、浅見先輩が希和と別れてくれたおかげで私は希和と付き合えたのだ。
この人の話をいくら聞いたところで、どうしたって私には複雑な感情しか湧かない気もした。
「ねぇ、見て」
浅見先輩が窓の外を見て、優しく微笑んだ。
同じ方角に視線を向けると、振袖姿の2人組の女の子が楽しそうに笑いながら歩いていた。
1人は真紅に近い鮮やかな赤い着物で、もう1人はシックな藤色。2人とも綺麗に結われた髪に、着物と同系色の花が添えられていた。
もう成人式は終わったのだろう。
私が朝出掛けるときにも、数人の振袖姿の女の子を見かけていた。
「懐かしいなぁ。って、もう10年以上も昔のことなんだけどね」
ふふっと浅見先輩が笑った。
その女の子達を目で追ったままでいると、後ろから小走りに駆けてきたスーツ姿の男の子2人組が彼女たちに声をかけた。
彼女たちは振り返ると嬉しそうに笑って、4人で並んで歩いていった。
「・・・・あの頃が一番幸せだったな」
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