第208話
「そこで2人は出会って、恋に落ちたんだ」
浅見先輩はふぅと小さく息を吐くと、
「なんかいいな。純愛って感じがして」
ほんの一瞬、寂しそうな笑みを浮かべたように見えたけれど、その直後。
「お待たせしましたー!」と明るい声で店員さんが運んできたキッシュやケーキに「すごく美味しそう!」と弾けるように笑った。
だから気のせいだったのかなと思った。
「史さんのケーキも美味しそうだねー」
「・・・・ひと口食べますか?」
色鮮やかな苺のタルトを目の前にしても、やはり食欲は湧いてこなかった。
思ったよりも小さめなサイズだったのが幸いだった。
「ううん、これ食べ終えて入りそうならオーダーするから大丈夫。ありがとう。それに私のひと口は大きいから、史さんの分がなくなっちゃうと思う」
私は俯き加減で「いただきます」と小声で言うと、タルトにフォークを突き刺した。
オーバー30とは思えない可愛らしい性格に、これ以上はあまり触れたくないと思った。
知れば知るほど自己嫌悪に陥りそうだった。
「ねぇ?告白したのって、木嶋くんのほうからでしょう?」
「え・・・・」
どうしてそんな風に思うんだろう?
「史さんって、あんまり自分から告白しなそうな感じがしたから。って、今日まともに話したばかりの勝手なイメージだけど」
確かにあまり社交的ではないかもしれない。
でもさすがにもういい大人だし、相手が恋人の純粋な同級生であったのならいくらだって愛想くらい振り撒ける。
それが上手く出来ないのは浅見先輩だからだ。
そんなあまり喋らない私を見て、浅見先輩が内気な性格だと思うのは、仕方のないことだと思った。
「それに、きわ・・・・木嶋くんはああ見えて、意外と欲しいと思ったら強引に自分から攻めるタイプだったし。だから告白したのは絶対に木嶋くんからなんだろうなって思ったの。図星でしょ?」
「・・・・・ーーー」
もう、嫌だ。
今すぐこの場から離れたい・・・・・・・・。
私とは違って、浅見先輩は。
希和のほうから「好きだ」と告白されて付き合い始めたんだ。
“欲しい”と思って自ら手を伸ばした相手は、浅見先輩だけなのに。
なんで今さらそんなことを・・・・それもこんな形で知らなければならないんだろう?
希和が強引で攻めるタイプだなんて、私は知らない。
“木嶋くん”ではなく自然と“希和”と言いかけたこの人は。
私の知らない希和を、知っているんだ。
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