第207話

食事がまだだという浅見先輩はほうれん草とベーコンのキッシュと野菜スープを。



彼女を前に食欲なんて湧くはずもなかったけれど、またも断ることが出来なかった私は、苺のタルトとアールグレイをオーダーした。







「史さんってお仕事は何されてるの?」




オーダーを受けた店員さんがテーブルから離れると、浅見先輩が私に尋ねた。





「・・・・デザイン事務所で働いています」



「え!すごい!素敵!」



「いえっあの、私はただの事務要員で、べつに私がデザインしているわけではないですから」





そんな可愛気もない、卑屈っぽくも聞こえる回答をしたにもかかわらず浅見先輩は、




「でも新しいデザインを生み出す為に史さんだって、どんな作業でもその手伝いをしていることに変わりはないんでしょう?」



「そうですけど・・・・」



「私は中心に立つ人間よりも、底で支える人間のほうが実はすごく重要な役割を担ってるんだって思うの。自分でお店を出そうとしてる今、そのことをさらに実感してる。私1人じゃ何も出来ていないもの。だからやっぱり素敵な仕事だなって思う」




「・・・・ありがとうございます」






美しくて完璧なのは、容姿だけじゃない。



この人は心までもが純粋で、とても綺麗で。





ーーー敵わないと思った。




見た目が完璧なのだから、せめて中身に欠点があればいいのにって。



そう願ってしまった私のほうが最低だった。



考えてみれば、やさしくて思いやりのある希和が、容姿だけで女性を選ぶはずがなかった。



希和が浅見先輩を好きになったのは、きっとその美しい心だったんだ。






「ね、もしかしてだけど」



「え?」



「史さんの会社の会計士が木嶋くんだったりする、とか?」



「あの、以前はそうでした。でも今は担当が変わってしまって・・・・」



「やっぱり!」




浅見先輩は軽く両手をパチンと合わせた。




「じゃあ2人はそれで出会ったのね・・・・。木嶋くんにいくら聞いても、史さんとのことは何も教えてくれなかったから。ポーカーフェイスでいたけど、きっと内心照れてたのよね」



「・・・・・・・・・・・・」




それは、照れていたわけじゃないと思う。



浅見先輩にだけは、私とのことを聞かれたくなかったのだと思う。



何も話したくもなかった。

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