第206話

ーーーどうして、



こうなっちゃったんだろう。







「ここね、前から一度来てみたかったの。でもお店の感じからして、お一人様にはなんとなく入りづらい雰囲気だったからなかなか来られなくて」




オープンしてまだ半年というモダンな雰囲気がお洒落なこのカフェは、祝日ということもあり多くの客で賑わっていた。



けれど浅見先輩曰く平日でも同じように満席になることが多いらしく、そうなるとカウンター席のような1人用の席がないこのお店で、2人席に1人で座るのもなんだか居心地が悪いのだそう。





「うちのお店も小さいけれど一応カフェも併設したフラワーショップだから、素敵で賑わっているお店の良い所を少しでも参考にしたくて。時間を見つけては色々と回ってるの」




「・・・・そうなんですね」




「それでね、ちょうど気になってたこのお店が近くだったのを思い出して、ついね、ちょっと強引にだけど史さんを誘っちゃったの」




希望に溢れているであろう未来のことを話す浅見先輩の瞳は、きらきらと輝いていた。





「なーんて、」



「え?」



「本当はね、木嶋くんの彼女がずっとどんな子か興味があったんだ。だから好奇心からの理由の方が大きかったのかも。ごめんなさい」



「・・・・いえ」





どんな子か、なんて。




見た目も中身もただ地味でしかない私が、希和の今の彼女だなんて。



自分とはまるで違う、対照的な女に。



浅見先輩はどう思っただろう・・・・・・





がっかりした?



それとも、実はほっとしたりしたのかな。





「ランチがまだだったからお腹空いちゃった。史さんは食事はもう済ませた?」




私もお昼は食べていなかった。けれど、




「あの、私は飲み物だけで結構です」



「じゃあデザートでも食べない?ここのケーキがどれもすごく美味しいらしいの。もちろん私の奢りだから好きなだけ頼んで?」




彼女はとても30代とは思えない無邪気な可愛いらしい笑顔で、私の前にメニューを広げた。







ーーー本当は、すごく断りたかった。




希和の元恋人である浅見先輩と、なにが楽しくてお茶なんてできるだろうって。



けれどこんなにも綺麗な女性に可愛くお願いされて断れないのは、どうやら男性だけじゃなかったらしい。



けっきょく上手く押し切られる形で一緒にこのお店に来てしまった。

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