第205話

冷静に、冷静に。



「・・・・はい、ちょっと贈り物を買いに。あの、浅見さんはお仕事中ですか?」




「名前、覚えていてくれたんだね」




浅見先輩は再び目を見開いた。





「あ・・・・」




浅見先輩からしてみたら私は軽く挨拶したことのある程度の人間で、会うのもまだ2度目なのだ。





「もしかして木嶋くんに聞いてた?私のこと」





ーーーーどうしよう。




浅見先輩は、どういう意味でそう聞いているんだろう?



同級生で、今は希和のクライアントであるということ?



それとも・・・・元彼女だということも知っているのかどうかを聞いてるのかな。



でも希和は、私が浅見先輩と過去に付き合っていたことを知っているということを知らないわけだから、それを浅見先輩にも知られるわけにはいかなかった。




だから、




「大学の同級生だったって聞きました。それと今はフラワーショップをオープンさせることになったから、その手伝いを希和がしていることも」





嘘は、言ってはいない。



希和からは確かにそう聞いたのだから。





「ーーーそっか」




何をどう捉えたのかわからないけれど、浅見先輩は曖昧に微笑んだ。




「ちょうどそのお店のスタッフとの打ち合わせを終えて、これから改装中の店舗を見に行こうとしていたところだったの」



「っ、すみません、お忙しかったですよね!じゃあ私はこれでーーー」




正直こんなふうにこの人と面と向かい合わせてていることは、かなりしんどかった。



だからここから立ち去るきっかけを浅見先輩の方から与えてくれたことがありがたかった。




再び軽く下げた頭を上げると、これまたタイミング良く信号が青に変わっていた。



私は浅見先輩の顔をそれ以上見ることなく、そのまま逃げるように横断歩道を渡り始めようとした。




けれど、





「ーーー待って!」

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