第204話

横断歩道の向こう側。



黒いコートに大判のストールをぐるぐると巻いた、モデルのような綺麗な女性の姿に目が止まる。





冷たい風が吹いた。




昔から変わらない彼女のトレードマークとも言える長い髪が横に靡き、それを咄嗟に片手で抑えた。



その仕草ひとつでさえも美しく、見惚れてしまう。



彼女のすぐ側に立っていた中年のサラリーマンも彼女に釘付けだ。




遠目からでもあれだけの輝きを放つ人は、一般人ではそうはいないと思う。






本当に、次元が違いすぎるーーーー







ねぇ神様。




同じ土俵にも立てない相手をライバルにするなんて、残酷すぎるよ・・・・・








いつのまにか信号が変わったことにも気付かぬまま、私は吸い込まれるように見つめ続けていた。




その姿が次第に大きくなっていき、私たちの間にほとんど距離がなくなっていたことにはっと気付いたときには、彼女としっかり視線が絡んでいた。




しまった、と慌てて視線を逸らそうとしたけれど時すでに遅し。



何かを思い出したように、彼女が目を僅かに見開いた。





「ーーーあのっ」





信号を渡り終え、私の目の前に立った彼女に声を掛けられてしまった。





「もしかして、木嶋くんの・・・・?」





私はなんてバカなんだろう。



あいにく私は彼女のような華もなければ、目立つこともない。



だから私が彼女を見つめなければ、彼女は絶対に私の存在になんて気がつかなかったはずなのに。



これは完全に自爆だ。





「あの・・・・はい、そうです・・・・こんにちは」




私はどうしていいかわからず、とりあえずぺこりと小さく頭を下げた。




すると浅見さんは綺麗な笑みを浮かべて、





「こんにちは。今日は1人でお買い物?」





私の手にしていた紙袋に、ちらりと視線を移した。



心臓がバクバクと脈を打つ。

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