第201話
あの一件から数日後。
早いほうがいいと、穂高さんから永瀬部長に連絡をしてくれて3人で会うことになった。
けれど私はあくまで2人の問題だから、2人で話をさせて欲しいと穂高さんにお願いした。
穂高さんは顔を顰めたけれど、しぶしぶ了承してくれた。
穂高さんが指定したカフェで、私と永瀬部長が向かい合って座り、その後方の私の真後ろの席に、背を向けた穂高さんが座った。
永瀬部長は改めてきちんと当時のことを謝罪、というより釈明をしてきた。
私と付き合う前にきちんと別れていたはずの今の奥さんに強引に迫られ、最後だという約束で私と付き合い始めたあとに一度だけ関係を持ったこと。
その一度だけの行為で彼女が妊娠してしまったこと。
自分は嵌められたのだとすぐに気づいたけれど、けっきょく自分の子を妊娠した彼女を見捨てることが出来なかったこと。
それから本当に好きだったのは私で、今さらだとはわかっているけれど妻とはいずれ離婚するからどうしてもやり直したいと、延々と話し続けた。
言いたいことは山ほどあった。
嵌められたと言ったけれど、そもそも彼女を抱いた自分自身に一番責任があるのだと思わなかったのか。
たった一度だけでも、それは裏切りには変わりはなくて。
あの当時それでどれだけ私が傷ついたのか。
この人は何年も経った今でも自分の弁明ばかりで、私の気持ちをなにひとつ理解しようとはしてくれていなかった。
それを今さらやり直したいと言われても、虚しさと悔しさしか滲んでこないことも。
だけど面と向かうとやっぱり自分の気持ちをうまく言葉にできなくて、今はもう恋人がいるという事実を告げるだけで精一杯だった。
自分の不甲斐なさに、テーブルの下でぎゅっと拳を握った。
「じゃあなぜその恋人はここに来ないんだ。ただの友人である男が付き添いって可笑しいだろう?恋人がいるっていうのは嘘なんじゃないのか」
「嘘なんかじゃありません!本当にいます!でも彼は仕事が忙しくて・・・・」
「本当に君を大切に思っているのなら仕事を放ってでも来るはずだ。もしくはその男の都合のいい日に僕を呼び出すこともできた。違う?」
「それは、」
「僕はもう二度と史を傷つけたりしない。今度こそ史を絶対に大切にするから」
いくら訴えても永瀬部長には何も通じない。
「遠回りしてしまった分、僕たちはきっと今度こそ強い絆で結ばれることができるはずだ。僕自身も試練を乗り越えたからこそ、今のほうがもっと史を幸せにする自信があるよ」
遠回りってなに?
試練って、なに?
「史が好きだ。愛しているんだ。もう誰にも邪魔なんてさせない。今度こそ2人で幸せになろう?」
結局は全て自分の二股が原因なだけなのに、まるで美談のように話す永瀬部長にぞっとした。
穂高さんの言う通りだ。
この人は、おかしい。
ストーカーだと言われてもいまいち信じられなかったけれど、今初めて永瀬部長の異常性を痛感した。
そして背後に感じる穂高さんの気配に、とてつもない安心感を覚えた。
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