第7章
第199話
年末年始は一瞬にして過ぎ去り、成人の日である今日まであっという間だった。
会計士の仕事は毎年12月から3月頃まで殺陣的に忙しいらしく、ただでさえ普段から会う頻度の少ない私たちだけど、この期間はさらにその回数が激減する。
平日だったクリスマスには当然会うことは叶わなくて、けれどそれでも31日の夕方から元旦は丸1日休むことのできた希和と年越しは一緒に過ごせた。
そのときに「遅くなってごめん」とクリスマスプレゼントも貰ったのだけど、それは多くの女性が憧れるハイブランドの靴だった。
飾っておきたくなるほど美しいシルエットのピンクベージュのパンプス。
一体いつ買う暇があったんだろうと申し訳なさもありつつも、忙しい中でも私を想って用意してくれたその気持ちがすごく嬉しかった。
誕生日のときとは違って、クリスマスにもしかしたら・・・・なんて期待はもうしていなかったから、純粋な気持ちで喜べたのかもしれない。
数週間ぶりに会った希和は、普段からの忙しさにさらに輪をかけてのこの時期だからか、さすがに疲れが顔に滲み出ていた。
ふと希和を目で追うと、なんとなくぼーっとしていることが多かったように思う。
その理由が仕事の忙しさだけが原因なのかは、知る由もなかった。
何度も希和に、永瀬部長とのことを話そうと思った。
だけどそんな希和の表情を見ていたら、けっきょく話すことなんて出来なかった。
言うタイミングがなかったわけじゃない。
それは行為の最中だった。
すでにほとんど瘡蓋になっていた私の両膝の傷に気づいて驚いた希和に、「これどうした?」とすごい勢いで聞かれた。
話すならその時だったと思う。
だけど、・・・・・・言えなかった。
言葉を詰まらせることもなく恥ずかし気な笑みと共に、私がスムーズに口にした言葉は、
「実はこの歳で思いっ切り派手に転んじゃったの。情けなさすぎてあんまり言いたくなかったんだけど」
ただ原因を付けなかっただけで、完全な嘘ではなかった。
希和は一瞬眉を寄せたものの、「本当に気をつけろよ?」と言って優しく膝を撫でてくれただけだった。
いつもなら勘が鋭く些細なことでも気づく希和が、なぜかその日はそれ以上に深く触れてくることはなかった。
気づかないフリでもなく、本当に気づいていなかったのだと思う。
疲れていたせいなのか。
それとも、私への関心が少しずつ薄れてきたせいなのか・・・・・・わからないけれど。
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