第196話
長い長い夜だった。
テレビもなければ、外からの雑音もほとんど聞こえない静かな室内。
私たちは眠りにつくことなくずっと、たわいもない話を続けていた。
どうせ眠れないであろう私に、どうせ夜型だから気にするなと穂高さんが付き合ってくれていた。
「私ね、曇り女なんです」
いつまでも明ける気配のない夜が延々と続くうちに、私は不意にそんなことを口にしていた。
「は?曇り女?」
「そうです、曇り女です」
自分で言いながらも、あまりにくだらない話に少し笑ってしまった。
「なんだそれ、そんな言葉初めて聞いた」
穂高さんも釣られたように、少し笑う。
「晴れ女とか雨女とかなら聞いたことあるけどな。曇り女って」
「私も本当にあるのかどうかはわからない言葉ですけど、とにかく私がなんとなく空を見上げる日はいつだって曇ってるんです」
綺麗な青空が見えなければ、陽が射すこともない。
一方で、大きく天候が崩れて雨が降ることだってない。
雲の厚さはそれぞれだけど、いつだって薄暗い灰色の雲に覆われた状態なのだ。
「どちらにも転ぶことのない空はいつも不安定で。なぜか見上げる度にそんな空ばっかりだから、いい加減ちょっとうんざりもするし」
「そんなの、たまたまだろ。ただのタイミングだ」
「そうかもしれないですけど・・・・・じゃあそのタイミングが悪いんですよ、いつも。清々しい青空が見たいのに叶わない。だから自分で勝手に私は曇り女なんだって思ってるんです」
空は心を映す鏡なのかもしれない。
最近薄々そんなふうに感じている。
酷く崩れることもなく、かといって明るい光が射すこともない。
それは、はっきりしない心模様みたいだ。
そして私は・・・・
そんな空に、少し疲れてきている。
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