第194話
穂高さん自身も当然わかっていたことなんだろう。
私には軽い笑みを返すだけで、そのことに対しての返事はなかった。
「離婚してから俺は再び、漫画家としての仕事も積極的に受けるようになった。それから最近になってようやく定期的にイラストレーターの仕事も入るようにもなったんだ」
「そうだったんですね・・・・」
奥さんのあの頃の支えも報われたんだ。
そして、離婚して夫婦じゃなくなった今でもずっと、心の中では穂高さんの夢を応援し続けている。
すごいな。
私にはきっと真似できない・・・・・・
「おい」
「はい?」
「俺がなんで今、史にこんな話をしたかわかってるのか?」
「へっ?」
なんでって、え?
「なんとなく話の流れでじゃなくて?」
何か理由があったの?
「おまえが落ちてる夜に、こんな重い話をなんとなくするわけねぇだろ」
そう言って穂高さんは、大きく息を吐いた。
「史がどことなく莉緒に似てるからだよ」
「え・・・・」
莉緒って、奥さんのこと?だよね。
「似てる、って?え、え?だって確か奥さんってすっごく綺麗な人だって森さんが」
「あ?顔じゃねーよ、バカ」
「・・・・・・・・」
なにもバカとまで言わなくても。
私だって自分の顔のレベルくらいちゃんとわかってるし。
だからおかしいなって思ったんだし。
「似てるってのは、1人で全部抱え込んで肝心なことはなにも伝えないところだよ」
「・・・・・・・・」
そんなことないって。
そう反論しようと口を開きかけたけれど、穂高さんの瞳があまりにも真剣だったから結局なにも言い返せずに口を閉じた。
別に1人で抱え込もうとしてるつもりなんてない。
それに私は穂高さんの奥さんとは違うから。
だって私の場合は奥さんのように希和の為に、希和のことを想っての行動じゃない。
私が希和になにも言えないのは、ただ希和のそばを離れたくないという全部自分勝手な都合からだ。
私の感情は決してそんな純粋な、綺麗なものじゃないから。
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