第191話

「・・・・そうですね」





この絵の中の私は、すごく幸せそうな笑みを浮かべていて。



私もこんなふうに、自然と素敵に笑えるような女性になりたいと思った。



もしかしたらこれは穂高さんが自分がプロの絵描きだという証明の為に描いたものではなく、穂高さんなりのエールなのかもしれない。








「俺、本当は漫画家じゃなくてイラストレーターになりたかったんだよ」





その絵をじっと見つめていると、穂高さんが不意に自分のことを話し始めた。




「小さい頃から絵を描くのが好きで。いつからかそれが明確にイラストレーターという仕事に就きたいって思うようになった。けどそれで食べていける奴って本当にひと握りで、厳しい世界だってことも早々に気づいたよ」




私も雑用係とはいえ似たような業界で働く身だから、その難しさはなんとなく想像はつく。




「それでもその道で若い時から少しは仕事を貰えてたんだけどさ。やっぱりすぐに行き詰まって。その時にたまたま挑戦して描いてみた漫画ででっかい賞を受賞したんだ。そこから連載も受け持つようになった」



「それもすごいですよね。漫画家さんだって、それだけで収入を得て生活出来る人なんて本当に少ないですよね?」



「まぁそうだな」




イラストレーターだけじゃない。



漫画家だって同じように厳しい世界であることに変わりはないのだから、そこで成功しているのはすごいことだ。




「自分は恵まれた環境にあるんだと今は素直にそう思えるけど、昔はそうじゃなかったんだ」



「昔は、って?」



「同じ絵描きでも漫画家になりたかったわけじゃなかったからさ。イラストレーターとして成功させたくて、専念する為に収入を失ってでも漫画を描くのをやめた時期もあった」



「だってそれじゃ生活が・・・・」




気持ちはわかるけれど、夢を追うだけじゃ食べてはいけないのだ。




「それをずっと支えてくれたのが、大学卒業後にすぐに結婚した奥さんだった」




・・・・そうだ。


この人は早くに結婚していたんだ。




「普通にOLしてた奥さんが、生活費のほとんどをまかなってくれていた。いつか俺がイラストレーターとして成功するようにって、いつだって笑顔で応援してくれていたんだ。恥ずかしい話だけど、俺はそれに何年も甘えていた」




“今”を知っているから、その話の続きを聞くのが正直怖かった。



だけど、それでも。



私は静かに耳を傾けた。

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