第190話
「今はまだマシかな。イラストの仕事が入ると本気で寝る暇なんかねぇし」
「イラスト?」
「イラストレーター。広告だったり商品に絵を描いたりしてんの」
「え?!」
それって、うちの会社に通づるような仕事を穂高さんもしてるってこと?
「漫画だけじゃなかったんですね、お仕事」
「漫画家がそう言った仕事を兼業するのは珍しいことではないよ。まぁ収入からしたって俺の仕事のメインは漫画のほうだけど」
なんかこう見た目と違って、穂高さんって多才な人なんだなぁ。
失礼だけど、正直絵もまったく上手そうには見えないのに。
「おい、心の声がダダ漏れだぞ」
「え」
「本当に絵なんて描けんのか?って思ってただろ」
ぐっ。
私ってば、顔に思いきり出ちゃってたのかな。
「ベランダで壁越しに話すよりもこうして面と向かっての会話だと、史はさらにいろいろ伝わりやすくていいよな」
「・・・・私は壁越しでのほうが話しやすいです」
穂高さんはくくっと笑うと「ちょっと待ってろよ」と言って、デスクの上にあったメモ帳の束を1枚切り離し、鉛筆でささっと何かを描き始めた。
私の位置からは何を描いているのかまったく見えなくて、言われた通りにそのまま待つことほんの数分。
ううん、たぶん本当に1分くらいだった。
「ほらよ」
そう言って渡された白いメモ帳には、ソファに座る女の子とその隣に寄り添うようにして眠る猫。
女の子は嬉しそうに微笑んでいる。
モノトーンのはずが、脳内では勝手に鮮やかに色付いていた。
「すごい・・・・・・!すごく素敵です!」
心が一瞬で温まる、そんな絵だった。
こんな短時間で、まさかここまで素敵なものが描けるなんて本当にすごい。
この人は本当にプロの絵描きさんなんだ。
少しでも疑ってしまったことを申し訳なく思った。
「これってもしかしてノラちゃんと、・・・・私ですか?」
そう。
この絵に描かれているのは、今の私とノラちゃんの構図とぴたりと一致する。
靴下を履いているような柄の猫は間違いなくノラちゃんだとわかるけれど、女の子は髪型は私と同じだけど随分と幼く見えた。
「イラストだし、かなりデフォルメしてある。それにせっかく描くなら泣き顔より笑顔のほうがいいだろ?」
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