第188話
「危機感ゼロだな、ほんっとに」
「・・・・・・・」
すみません、と小声で呟く。
どうやら本気で呆れさせてしまったみたいだ。
ボサボサヘアから覗く鋭い眼球に睨まれると、かなりの迫力で萎縮してしまう。
「後をつけたのがおまえを見かけたその日一度きりならまだしも、何度も繰り返してんだぞ?普通はいくら好きだからっつってもしないだろ、そんなこと。ストーカーしてる本人は、それがストーカー行為だという自覚がないんだよ」
そう言われるとそうなのかもって、穂高さんの言うことが正論だとも思うけれど。
相手が一度は私を捨てた人だし、そんなつけ狙われるほど自分に魅力があるのかとも正直疑問に思ってしまうから。
だからどうしても私のほうにもストーカーされていたという自覚が湧かないのだ。
「史は嫌な思いも怖い思いもしてたんだろ?」
それは、当てはまるけど。
怖かったし、嫌だったし・・・・ショックだった。
私は黙って頷いた。
「いいか、だったらいくら昔付き合ってた男だからって簡単に信用するな。絶対に隙を見せるな」
わかったな、と少しきつい口調で穂高さんは言った。
「まぁ言ってることは頭がおかしいと思うが、話が全く通じない相手ではなさそうだし。それに、かなり良いとこにも勤めてんだな」
穂高さんはポケットから取り出した名刺をペラペラと、挟んだ指で振りながら見ていた。
「部長って言ってたけど本部長って書いてあるぞ?出世したのか」
「本部長?!」
ーーーそれは、すごい。
でも当然なのかな。あれだけ仕事が出来たあの人なら、この先もどんどん出世していくのだろう。
「見るからに最終的には社会的地位はきちんと守りたいタイプだろうし、これ以上無茶なことはしてこないとは思う。だからこっちも威圧的な態度をとるよりも下手に出たほうが早いと思ったんだよな」
そっか、だからなんだ。
最初は永瀬部長に対してすごい剣幕で怒鳴りつけていたのに、最後は「頼む」と言って頭を下げてくれていたっけ。
その方が永瀬部長には効果的だと、穂高さんは咄嗟に考えたからだったんだ。
穂高さんも実はすごく頭がキレる人で、企業に勤めても普通に仕事ができるタイプなんだろうな。
「あの男とはもう一度ちゃんと会って話をつけたほうがいいと思う。けどおまえは大丈夫か?面と向かって会えるか?」
「・・・・はい」
身勝手な感情を抱く永瀬部長に対して、やっぱり少し怖いという思いは拭えないけれど、それでも会わなければと思う。
今さらだとも思うけど、あのとき別れ話も何もなかった私たちだからこそ、きちんと話をしなければ。
「大丈夫です。私、会います」
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