第187話
「わかってます、そんなこと。でも悪いのは話さなかった私であって、希和になんの問題もないんです」
悪いのは、私自身だ。
今はまだ希和の気持ちの揺れに気付かないふりをして、聞き分けのいい彼女でいたいから。
核心に触れたくなくて、私のことで余計な面倒もかけたくなかった。
その気持ちはやっぱり、こんな状況になった今でも変わらない。
「・・・・だから、希和のことそんなふうに言わないで下さい」
すべて勝手な私の都合だから。
希和はなにも悪くない、絶対に。
「・・・・悪かった、言い過ぎたよ」
睨むような力を込めた瞳にも、また薄っすらと涙が滲んで。それを見た穂高さんが目尻を下げた。
「つい虐めたくなったんだよ。つけ狙われてたことに気づいていたくせに警戒心が弱すぎた史に苛ついたんだ」
「・・・・それは」
「こんな遅くに1人で歩いて帰ってくんなよ、無謀すぎんだろって」
「ごめんなさい・・・・」
穂高さんの言う通りだ。
ここ最近はずっと気をつけていたつもりが、今日に限ってはすっかり抜け落ちていたのだ。
頭がそれどころじゃなかったというか。
だけどそれは言い訳にしかすぎなくて、結局こうして穂高さんに迷惑をかけてしまった。
「もういいよ。で、どうするんだ?」
何が?と、首を傾げると。
「あいつ離婚するって言ってるけど、やり直すの?」
「はい?!まさか!」
「だよな」
当然だ。
もうとっくに永瀬部長に未練なんてないし、身勝手に離婚を考える人とまたどうこうなろうとは思えない。
それに第一、私には希和がいる。
例えこの先どうなるかわからないにしても、私はずっと希和を想い続けてしまう気もするし。
この先、希和以外の誰かを好きになるなんて、今の私には考えられなかった。
「んじゃ早いとこストーカー野郎にはっきりと引導渡してやるべきだな。てめぇなんか二度と好きなるかって」
「引導って。それに、ストーカーって言い方もやっぱりなんだか大袈裟な気もしますし」
「あ?」
「永瀬部長も言っていたように、ただ声をかけられなかっただけで何か酷いことされたわけでもないし・・・・する気もなかったと思うんです」
べつに永瀬部長を庇ってるわけじゃない。
未練もないし情だってない。
けれど、少なくとも私の知っている永瀬部長は
仕事もできて周囲からの信頼は厚く、女性からも人気があって。いつだって大人の余裕を漂わせているような人だった。
だからこそ、そんな人がストーカーだなんてとても信じられなくて・・・・。
永瀬部長が言うように、本当にただ見ていただけでいつか声をかけようとタイミングを伺っていただけなのかもしれない。
だからさすがに、ストーカーと呼ぶのは気が引けてしまう。
すると盛大なため息が落ちた。
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