第185話

私が自然と眉を顰めてしまっていたようで。



「おい、そんな変な目で見んなよ。俺は森ちゃんに頼まれてたんだよ」



「え?」



「おまえがストーカーに狙われてるようだから気にかけてやってほしいって」




森さんが穂高さんに・・・・・・。




「俺なら隣に住んでて、しかもほぼ部屋にいるし。適任だと思ったんじゃねぇの?まあマンションの周辺以外で襲われたらどうしようもなかったけどな」




確かこのことを相談したとき森さんは、何か良い方法はないか探しておくようなことを言ってた気がする。



その後で、穂高さんに私のことお願いしておいてくれたんだ・・・・。




明日にでも電話してお礼を言わなきゃ。







消毒液を救急箱にしまい終えた穂高さんが、すっと立ち上がった。





「なんか飲む?コーヒーか・・・・緑茶か」



「あっ、えと、どちらでも。あの、私がやりますけど」




同じ造りの部屋だし、勝手もわかってるし。




「いいよ座ってて」



あっさり断ると穂高さんは、すたすたとキッチンの方へと向かってしまった。






漫画家さんの部屋って、もっとごちゃごちゃしているイメージだった。



けれどこの部屋は少し寂しいくらいに、必要以上に物がない。



部屋の隅に置かれた大きめのデスクと、その上にパソコンと何冊か乱雑に積み上げられた本。


その中には穂高さんの仕事柄、もしかしたらアダルティなものも含まれているのかもと思ったけれど、そういった雰囲気のものはなさそうで少しほっとした。



もし見かけてしまったら、やっぱりなんだか気まずいし。



デスク以外のものといえば、今座っている2人掛けソファと電気ストーブがあるだけで、驚くことにテレビもテーブルもない。



またいつでもすぐに引っ越していけるような、なんだか仮住まいのようにも感じた。






温かい緑茶を入れてきてくれた穂高さんは、案の定テーブルがないから置く場所もなく、トレイをそのまま床に置いた。




「いつも食事ってどこでされてるんですか?」



「そこ」



パソコンの置かれたデスクを指差した。




「置く場所がないじゃないですか」



「そん時だけちょっと本とか退けるんだよ」



「・・・・テレビは見ないんですか?」



「今の時代、パソコンでも見られる。まぁほとんど見ないけど」




隣で眠ったままのノラちゃんを起こさないようにそっと撫でながら、なんとなく穂高さんも猫みたいな人だなと思った。



自由気ままに生きているような。



もちろん離婚も経験したりで、きっと今までそれなりに苦労はしてきたんだろうけれど。


だからこそ今はもう自分の好きに、マイペースに生きているようなそんな気がした。



少し、羨ましく思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る