第184話
ひとしきり泣いて、ようやく私が少し落ち着きを取り戻した頃。
腿の横にある小さな温もりに気づいた。
まるで寄り添うように丸まって眠る、ノラちゃんだった。
「・・・・すごいよな、こいつ。ベランダで話す奴だって史の存在をちゃんとわかってて、しかも落ち込んでることも理解してんだよ」
私の足もとで胡座をかいて座ったままの穂高さんが、愛おしそうにノラちゃんを見つめた。
その表情が、なんだか微笑ましかった。
「・・・・あの」
「ん?」
「吐いてませんから」
私はそういえばと、唐突に思い出したことを口にした。
「お風呂場で。何度かえずいただけで、完全にもどしてはないですから」
一応女として、そこは否定しておきたかった。
オトナリサンの家のバスルームを汚してはいませんよ、と。
「・・・・別にそんなの、どっちでもいいのに」
私の意図を理解したらしい穂高さんが、くくっと笑った。
「それから改めてもう一度言わせて下さい。助けて頂いて本当にありがとうございました」
私は座ったままの体勢だけれど、深々と頭を下げた。
「いいよ、っていうかもっと早くに俺が駆けつけていればこんな怪我しなかったのにな。跡残んなきゃいいけど」
私はふるふると首を振った。
「これくらい、平気ですよ」
両膝に大量の絆創膏を貼ったこの姿はかっこ悪くて恥ずかしいけれど、しばらくスカートを履かなければいいだけだし。
・・・・それにしても。
こうしてちゃんとまともに穂高さんの顔を見ると、長い髪の毛と髭がなければ、この人ってかなりのイケメンな気がする。
濃いめの、彫像のように綺麗な顔だ。
そういえば森さんも前にそんなこと言ってたような。勿体無いって。
髭とボサボサヘアさえなくせば俳優さんみたいで、すごくモテそうだ。
「あの、ところでどうして穂高さんはあの場所にいたんですか?」
「あぁ、史が今日はなかなか帰って来ないから変な胸騒ぎがして探しに行ったんだよ」
「え・・・・・・」
“今日はなかなか帰ってこない”って。
それってなんだか穂高さんがストーカーみたいなんですけど。
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