第183話

え・・・・・・





「嘔吐してんの、聞こえた」





ーーー嘘。





「今の史は自分が思ってる以上に、精神的に参ってんだよ。そんな状況で今夜独りきりでいるのは絶対にきついはずだ」





「ーーー・・・・っ」





ぼろぼろと涙が零れて。



雫が膝の上にぽたりと落ちた。







ーーーどうして、






「ただのオトナリサンでも、今は誰かがそばにいたほうがいい」







どうして穂高さんなの?




最悪な1日を過ごした私を最後に救ってくれた人が、どうして“ただのオトナリサン”でしかないはずの穂高さんなの・・・・?







「・・・ひ・・・っく」





絆創膏を貼り終えた穂高さんが、下から覗き込むようにして顔を上げる。





長い髪の間から覗くその瞳は優しくて、





「怖かったよな?ごめん、もっと早く向かえばよかったな」





すっかり耳に馴染んでしまったその声にも、ほっとしてしまう。



完全に心が緩んで、よけいに泣けてくる。




こんなにふう泣かれても穂高さんが困るだけだとわかっていても、もう耐えられなかった。





「もういいよ、我慢すんな。好きなだけ泣いたらいい」





私のすべて見透かすようにそう言うと、穂高さんは私の頭をやさしく撫でてくれた。



何度も、何度も。



まるで小さな子どもをあやすように。





「さすがに弱ってる史を抱きしめてやるわけにもいかないし、これで我慢しろよ?」







ーーー違うの。




あのとき本気でもうダメだって思ったから、助けに来てくれて嬉しかったの、本当に。






・・・・だけど。



絶対絶命なシーンで登場するのも、こんなふうに優しく慰めてくれるのも、漫画やドラマならそれはヒーローの役目だと決まっているから。



だってそのあとはお約束のように、そのヒーローと結ばれるはずなのだから。





それなのにどうして・・・・



今ここにいるのが希和じゃないんだろうって。






“誰か”にじゃなくて、



希和にそばにいて欲しいのに、どうしてって。




そう思わずにはいられないんだよーーーー・・・・

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