第182話
「ーーー嘘つき」
穂高さんの部屋に着くなり、すぐにバスルームへと連れて行かれた。
とりあえず冷えきった体を温めろと湯船に浸かることになり、そしてなぜか穂高さんの服まで借りることになった。
すぐ隣に戻れば、自分の服くらいあるというのに。
「森さんなんて、どこにもいないじゃないですか!・・・・・痛っ」
お風呂から上がると今度はソファに座らされ、その前に胡座をかいて座り込んだ穂高さんが怪我の手当てをし始めた。
思いっきりコンクリートで擦った両膝に、消毒液がかなり染みる。
「もう少し我慢しろって。・・・・森ちゃんがいるなんて、俺は一言も言ってない」
はぁ?
森ちゃんとは言ってないけど、でも、
「部屋には俺1人じゃないって言ったじゃないですかっ」
「だから、ノラがいるだろ」
「・・・・・・・・・・」
穂高さんの隣で、お行儀良くお座りしている白黒の猫。
お初にお目にかかるノラちゃんは、想像以上の美人さんだった。
・・・・・・・・が。
私は背中に充てていたクッションを外すと、それを穂高さんの顔面にぼふっとぶつけた。
「ぶ・・・・・!なにすんだよ!人がせっかく治療してやってんのに」
「それは感謝してます。でも嘘つきは嘘つきです。手当てしていただいたら私はすぐに部屋に戻りますから」
「あー、それは無理だな」
「へ?どうして・・・・」
「そう言い出すと思って、史の鞄から鍵抜いといた」
ーーーーーは?
「そういうわけで、今日はここに泊まれ」
「そういうわけって、どういうわけですか!人のバッグを勝手に開けて鍵を抜き取るなんて、泥棒じゃないですか!」
「史の為だからしょーがねぇだろ」
「それにさっきから人の名前を勝手に呼び捨てで呼んでるしっ」
「だってその方が呼びやすいしー」
本当にこの人は身勝手で強引な人だ・・・・!
もちろん、わかってもいるの。
私を心配しての行動だってことは。
もちろん名前の呼び捨てには納得がいかないけれど。
「穂高さん、本当に私は大丈夫ですから帰ります」
「大丈夫大丈夫って。史のその言葉を信じろっていうほうが無理だな」
「どうしてですか!」
「おまえさっき風呂場で吐いてただろ」
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