第178話

穂高さんまでもがその場にしゃがみ込むと、私の両肩をぐっと抱いて自分の胸もとへと引き寄せた。




「君はさっきから何なんだ?」




同じ目線になった穂高さんを、永瀬部長が睨んだ。




「史とどういう関係なんだ。史には今、恋人はいないはずなんだが」




「・・・・え?」





なんでそんなこと、永瀬部長が・・・・





「関係ない奴は口出ししないでもら」




「ーーーなるほどね」





永瀬部長の言葉に、穂高さんが冷たく遮る。




「頻繁にではないけれど、ある程度こいつのことを観察し続けた結果、男と会っているところを一度も見かけなかった。だから恋人はいないと、そう判断したんだな?」




すると永瀬部長は図星だったのか、バツが悪そうに目を伏せた。



私と希和は恋人同士のわりに、会う頻度がかなり少ない。



だから永瀬部長がタイミングよくその日に見かけなければ、いないと思われても仕方がないのかもしれない・・・・けれど。




心は複雑だった。





「・・・・永瀬部長」



「ん?」




私に向けるその瞳は、付き合っていた頃と変わらずやさしいままで。



だからあの頃も、まさかあんなふうに裏切られるなんて微塵も思わなかった。






「どうして私のあとをつけたんですか・・・・?」





すると永瀬部長は一気に表情を曇らせた。




「・・・・2ヶ月くらい前だったかな。偶然駅で史を見かけたんだ。あの頃よりもずっと綺麗になっていた史に驚いて、目が離せなかった。」



「あ?だってアンタ既婚者なんだろ?」




穂高さんが永瀬部長の左手の薬指に視線を落とす。




「妻とは、離婚を考えている」



「え・・・・」




私が小さく驚きの声を漏らすと、永瀬部長はふっと自嘲的な笑みを浮かべた。




「結婚してもずっと上手くはいってはいなかったんだ。当然だよな。俺があの頃本当に愛していたのは、史だったから」

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