第177話

「恋人・・・・?んじゃつまり、別れたあとの未練からストーカー化したってことか」



「さっきから犯罪者やらストーカーやらって一体ってなんなんだ!俺はただ少し前に偶然見かけた史のことが気になって、それから話す機会を伺ってただけで」



「結局はこいつの後を何度もつけてたんだろ?そういうのをストーカーって言うんだよ!」



そう言って穂高さんが再び掴みかかろうとしたけれど、永瀬部長はそれをあっさりと振り払った。



身長は穂高さんのほうが高いけれど、体格はスーツのせいもあるかもしれないけれど永瀬部長の方がよく見える。




「・・・てめぇ、警察呼ぶぞ」



「呼んでもいいが、この場で怪しく見えるのは俺よりも君のほうじゃないのか?」



「・・・・・・・・」



「・・・・・・・・」






ーーーー確かに。



ボサボサに伸びた髪と髭は、まるで浮浪者だ。


しかも服装も上はフリースで下はジャージ、足もとはこの寒い中なぜか素足に下駄という・・・・



怪しい、怪しすぎる。



一方の永瀬部長はスーツ姿で、きちんとした身なりだし。駆けつけた警察官は真っ先に穂高さんに声をかけるだろう。






「・・・・ふざけんなよ」




穂高さんは今日一番の重低音を発すると、ポケットからスマートフォンを取り出した。





「だったらお望み通りに呼んでやるよ」




にやりと笑ったように見えた穂高さんに、永瀬部長は思い切り目を丸くした。



まさか本気で呼ぶとは思ってもいなかったのだろう。




だけどそれは私も同じで、




「ちょ・・・・!ちょっと待ってくださいっ」




慌てて穂高さんの脚にしがみついた。




「そんな警察なんてやめてください!」



「うるせー!ストーカー野郎を野放しになんてできるか!それにおまえも怪我までさせられてんだしっ」




穂高さんが指差した先を見れば、私の両膝が酷く擦りむいていて血が流れ出ていた。




「怪我って、・・・・そんな大袈裟です。それにこれは私が勝手に転んだんだし」



「史、本当にすまない」





私の怪我に初めて気づいた永瀬部長は膝を立てて座ると、私の脚に手を伸ばした。



すると今度はその手を思い切り穂高さんが振り払った。





「こいつに触んな・・・・!」

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