第175話
もうダメだーーー・・・・
人通りも少なく、すぐそばにある薄暗い公園までも視界をよぎる。
絶望しかなかった。
恐怖のあまり全身が硬直して、もうなんの抵抗もできない。
声を出せないこの状況に諦めるしかないんだ。
ぎゅっと強く目を瞑った。
けれど、
「頼むから逃げないでくれ・・・・!」
そう覚悟した私にかけられた声は意外にも脅すような怖いものではなく、懇願するような弱々しい声だった。
私は恐る恐る目を開けて、ゆっくりと振り返った。
「え・・・・・・・・」
ーーーーどうして、
その人の顔が視界いっぱいに映り込み、私は大きく目を見開いた、
その時だった。
「その手を放せよ、ストーカー野郎」
私の腕を掴んでいるその人よりも、遥かに怖いドスの効いた声が頭上から下りた。
「いっ・・・・・・・!誰だおまえはっ!おまえこそこの手を放せ!」
「あ?痛い?痛いよな?けどよ、それ以上の痛みをおまえが今彼女に与えてたんだろーがっ」
彼がそう言い放った直後、私の口を覆っていた手と腕が一気に解放された。
ふっと全身の力が抜けた私は、そのままさらに深くしゃがみ込んで動けなかった。
「おいっ、大丈夫か?」
助けに入ってくれた男性が、その人の両腕を掴んだまま私に声をかけた。
その男性を見上げると、180cmを優に超える長身に、肩下まであるボサボサのロングヘア。おまけに広範囲に髭まで生えているから、顔はほとんど見えない。
けれど、この人が誰かなんてすぐにわかった。
「ーーー・・・・穂高、さん」
あのベランダで、
もう何度も聴いた声だったから。
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