第174話
どう電車に乗ったかも正直覚えていない。
けれどもう何年も往復を続けてきた出勤ルートだ。
すっかり体に染み付いた習慣から、間違えることなくきちんといつもの駅で降りていた。
冷たい空気に頰を叩かれ、そこで初めて自分の今いる場所に気づいたのだ。
・・・・ダメだ。
今日は本当に散々な一日だった。
早く帰ってもうさっさと横になりたい。
何も考えずに眠ってしまいたい。
いくつもの街灯に照らされた道は充分に明るいはずなのに、なんだか頭も肩も全身が怠く重たいせいかいつもよりも薄暗く感じる。
マンションへと続く道を、ただひたすらに進んでいく。
長く、とてつもなく遠く感じる道のり。
あーーーー・・・・
一体いつから・・・・?
思考が鈍っていたせいで、今日は気づくのが遅れてしまったのかもしれない。
コツコツコツとソールが地面を蹴る音が、背後に付き纏う。
いつもよりも遅い時間帯のせいか前方に歩く人影は見当たらず、余計にその冷たい音が鮮明に響いた。
気のせいかもしれない。
私をつけているわけじゃないのかもしれない。
だけどなんとなく嫌な予感しかしなくて、怖くて後ろは振り向けなかった。
もうすでに人気のある駅からは離れてしまい、今は駅とマンションの中間くらいだ。とにかく早くマンションに辿り着くしかない。
懸命にスピードを上げるも、靴音との間隔は広がらない。
やっぱり気のせいなんかじゃなかった。
なんで森さんに言われた通り、もっと注意しなかったんだろう・・・・!
早く、早く早く・・・・・・・・!
縺れそうになりながらも、恐怖のあまり私は走り出していた。
けれど同時に早くなる足音。
それどころか次第に大きく聞こえてきて、ついにはーーーー
「待て・・・・・・・・!」
男性の低い声と同時に、がっと強引に二の腕を掴まれた。
「やっ・・・・・・・・・・・・!」
私はその手から逃れようと必死に身体を捩じらせると、その拍子にバランスを崩し勢いよく前方へと倒れ込んだ。
両膝と掴まれていない片手が、思い切りコンクリートに打ち付けられた。
「・・・・・・っ」
それでも痛みより恐怖が勝り、とにかくこの場から逃れなければと思った。
「誰かっ、たす・・・・・・・・!」
救いを求めようと大声を上げようとした私の口を、背後から大きな手が覆った。
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