第173話

『史より年上の方なんでしょう?ご実家ではなく1人暮らし?』



「・・・・そうだけど」



『じゃあそろそろお家のことを色々してくれたり、帰宅した時に出迎えてくれる存在が必要だって感じてる頃じゃないかしら。ねぇ?』




母の魂胆が見え見えで、本当に嫌になる。




「・・・・お母さん、私たちはまだそんなつもりは全然ないから。お願いだから放っておいて欲しいの」



『そんなつもりないって、だってけっこう長いお付き合いだっていうじゃないの。その相手の方だって職業柄、社会的にも家庭を持っていたほうが信頼度も増すでしょうし。結婚に踏み切らない理由がわからないわ』




「・・・・・・・・・・・・」




なんかもう、胃が痛くなってきた。




『とにかく一度その方を連れてうちに遊びにいらっしゃい。べつに堅苦しく結婚の挨拶をしに来いって言ってるんじゃないのよ?ただ一度くらいお互いに顔を見せ合っておいてもいいと思うの』




「・・・・彼は、すごく仕事が忙しい人だから」




『日帰りもできないほど、うちはそんなに遠くないわよね?それとも何?大切な彼女の両親に挨拶をしに来る暇もないっていうの?ゆくゆくは自分の両親になるかもしれないっていうのに?』







電話に出たことを、すごく後悔した。



どうして今、それも母親に、こんなふうに追い詰められなきゃいけないの?



どうしてそうやって心臓を抉るの?




どうして。





「・・・・とにかく、無理なものは無理だから」




むこうでまた何か声が聞こえた気がするけれど、私はお構いなくぷつりと通話を終わらせた。




キーンと耳鳴りがした。






実家に挨拶?



・・・・冗談じゃない。




希和の気持ちが見えなくて、結婚なんてワードすら私たちの間で禁句のように思えるこの状況の中で、そんなこと言えるわけないじゃない。




お母さんの言いたいことは、わかる。



きちんと未来(さき)を見据えたお付き合いをしている恋人ならば、親に会うことくらいどうってことないだろう。


年齢的にも、付き合いの長さにおいても、そういう付き合いをしている相手だと思うのが当然で、親だって期待せずにはいられないことも。




逆にそれを拒むということは、つまりーーー






私は親不孝な恋愛をしているの?

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