第171話
希和の想いが決して偽りじゃないとわかっていても、だけどそれがとても儚いものだということも知っているから。
「浅見先輩のことは?このまま何も知らないふりをし続けるの?・・・・私はやっぱり聞くべきだと思うよ」
「無理だよ」
私は即座に否定した。
「浅見先輩よりも私のほうが好きかどうかなんて、そんな重たいこと聞けない。それに、それを聞くのはルール違反だって気もするの。そういう約束だったでしょうって」
浅見先輩以上には愛せないって。
それでも精一杯私に同じ想いを返してくれた希和に、どんな顔して私は言えるの?
「そんなの、もうとっくに時効だよっ」
「時効かどうかなんて希和にしかわからない。だから私は・・・・怖くて聞けない」
「史・・・・・・・・」
私たちの関係を簡単に壊してしまうかもしれないそんな科白を、口にする勇気なんてない。
その問いに言葉を詰まらせる希和の表情を見ただけでも、私の心は簡単に砕けてしまう気がした。
私の覚悟は、なんて脆いものだったんだろうって。
今になってみれば笑ってしまうよ。
「これからは、なんでもすぐに相談して」
別れ際、杏里にぎゅっと抱きしめられてそう言われた。
「史の為ならいつだって飛んでくるから」
可愛い容姿とは正反対の男前な態度と言葉に、きゅんとしてしまった。
私の心はずっと曖昧で、希和との未来にどう踏み込んでいいのかわからないままだった。
だけど杏里に話したことで、ほんの少し心が軽くなった気がした。
それから数日後のことだった。
その日は朝から些細なことも含めて嫌なことばかりが重なった。
見上げた空が薄暗い雲で覆われているのは、よくあること。
けれど、朝起きて何気なくつけたテレビの星座占いが最下位だったこととか。
下ろしたばかりのストッキングをひっかけて伝線させてしまったこともそう。
中でも一番は。
朝一で届いた希和からのメールに、急遽今日からシンガポールに出張になったと書かれていたことだった。
だから今週末も会えないかもしれないと。
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