第170話

私だってそうはっきり言い切れたのなら、どんなに楽だろう。



私は返す言葉が見つからず、力なく笑みを浮かべた。



本当に、関係ないのかな。



あんなに好きだった人とまた仕事で頻繁に接するようになったら、薄れていた感情もまた簡単にとても強いものに戻ってしまうんじゃないのかな。



私が希和に対してそうだったように。




「ねぇ史」



「ん?」



「そんなふうに辛そうな顔してるんなら、やっぱりはっきりと聞くべきだよ。穂高先輩の史に対する今の気持ちをちゃんと」



「・・・・・・・・」



「何度も言うけど、史とはもう5年も付き合ってるんだよ?私はもっと自信持って聞けばいいと思うの」



「・・・・なんて?」



「え?」



「なんて聞けばいいのかな」



「なんて、って」





私の抑揚のない声での返しに、杏里は言葉を詰まらせた。




本当に、今さらなんて聞けばいいのかわからなかった。





「私のことが好き?って?」



「っそうだよ!そうやってストレートに・・・・」



「そう聞いたところで、希和の答えはわかってるよ」





そんなのわかってる。



だって私はずっとそばにいたんだもん。




希和のそばにずっと。





「希和は当然のように好きだよって返してくれる。愛してる?って聞けば、きっと愛してるって言ってくれる」




偽りじゃない。


希和はきっと本心から、そう答えてくれるだろう。




「さっきも言ったけど、私だって自覚はしてるの。今は希和にちゃんと愛されてるってわかってるんだよ」




「史・・・・」






だけど違うの。



たとえ希和から愛の言葉を囁かれても、もう満足できない自分が辛い。



絶対にあり得ないと思っていた、同じ種類の好きを返されるようになったというのに。



愛する人の精一杯の好意を喜べない自分が、想いの重さが同じではないことに不満を抱いてしまう自分が、




ひどく醜くくて嫌になるーーー・・・・

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