第156話

「・・・・来週、映画はムリだけど、式が終わったあとで会わない?」



「えっ、いいの?」



「二次会は断る気でいるから、そんなに遅くはならないと思うし」



「私は次の日も休みだし、何時になっても全然大丈夫だよ。だから希和さえよければ連絡待ってる」



「するよ、必ず」





ーーーこれって。



希和も少しでもいいから私に会いたいって思ってくれてるってことなのかな。



そうなら、すごく嬉しい・・・・。







「史、そろそろ送ってくよ」



「ありがとう。でもまだ早いし電車で帰れるからいいよ」



「だーめ。なんの為に俺がお酒飲まなかったと思ってんの?ちゃんと送る」




希和はチャリンと音を立てて、車のキーを手のひらに握った。




「・・・・ありがと」







日曜日の今日も昼間は仕事だった希和と、夕方から会う約束をしていた。



希和のマンションで一緒に夕食を作り、それからテレビを見ながらまったりと過ごした。



私の部屋だけでなくこうして希和の部屋にもお邪魔したりと、お互いのマンションを行き来するようになっていた。



だけどどんなに夜遅くなっても、希和は私の部屋に泊まらないし、私を希和の部屋に泊まらせることもしない。



セックスしない関係であっても、せめて一緒のベッドで眠りたいと思うのが本音だった。



だけどあの日以来、私から希和を求めるようなことは一切していない。



希和に言われたとおり、私には待つことしかできない。



本当に来るのかもわからな“その日”を、私は期待半分、諦め半分の気持ちで、ただひたすら待ち続けている。








「おやすみ、史。また連絡する」





車を降りる前に、希和が私の唇に触れるだけの軽いキスを落とす。




「・・・・おやすみなさい」




今日のデートの終わりを告げるこの行為が、心をさらに離れがたくさせることを希和はわかっていないのだ。



去っていく車を恨めしく見つめた。





半年前のあの日したような深いものではないけれど、外人がするような挨拶程度のキスは時々するようになった。



と言ってもここは日本だし、一応触れる場所も唇だから、挨拶とは違うのだけど。





付き合ってもうすぐ1年。




完全な恋人とはやっぱり違うけれど、親しい女友達以上にはなれたのかな。



それでも結局はどんな関係であろうと、1年経った今もこうしてそばにいさせてくれる希和には感謝しかないんだ。





それから私たちの関係に再び大きな変化をもたらす出来事が起こったのは、その翌週のことだった。

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