第155話
それからさらに半年ほど時が流れて、付き合い始めてからもうすぐ1年が経とうとしていた。
私と木嶋さんの関係は相変わらずで、会える頻度も少なければ、まだ体の関係もなかった。
けれど変わったこともいくつかあった。
「ごめん史、忘れてたんだけど来週の土曜日は用事が入ってた」
それは木嶋さんが私のことを、名前で呼ぶようになったこと。
ソファで寛いでいた木嶋さんが、不意に思い出したように顔を上げた。
「観たいって言ってた映画、その次の週でもまだ間に合う?」
「うん、大丈夫だったと思うけど・・・・」
私が好きなスペイン人の女優さんが出ている映画で観たいと思ったのだけど、作品自体はそれほどメジャーではなく上映している映画館も少なく期間も短い。
ミステリーものだと言ったら木嶋さんも観たいと言ってくれて、約束していたのだ。
「用事って、仕事?」
私も木嶋さんに対して、敬語を使わなくなったことも変化のひとつだった。
「いや、友達の結婚式。とっくに出席届けも出してたってのに忘れてたんだ」
そう言ってバツが悪そうに少し笑った。
その表情がまるで少年のように少し幼く見えて可愛いなと私の頰が緩む。
付き合い始めの頃よりも、こうして私の前でいろんな表情を見せてくれるようになった木嶋さん。
心を許してくれている証拠だと思うと嬉しかった。
「木嶋さんがそんな大切な予定を忘れるなんて珍しい」
「史、また“木嶋さん”に戻ってる」
ーーーあ。
「・・・・だって。なかなか慣れなくって」
敬語を完全になくせたのもつい最近で、けれど名前で呼ぶことはまだ恥ずかしかった。
穂高先輩から木嶋さんに呼び名が変わり、次はなんと名前を呼び捨てになんて。
かなりのステップアップに、戸惑ってしまう。
「史ってこっちが驚くほど大胆なところもあれば、そうやって今どき珍しいくらい純情だったりもするよな」
「大胆って、」
「“めちゃくちゃにして”なんて女の子から言われたの、初めてだったよ」
「あれは・・・・!」
「あんな言葉を口にできるのに名前を呼ぶのが恥ずかしいなんて、史くらいじゃない?」
そう言って木嶋さんは、・・・・希和は、くくくっと楽しそうに笑った。
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