第154話

「もう少し待って」




「え?」




「もう少しだけ、時間が欲しいんだ」






木嶋さんの胸から顔を上げようとしたけれど、ぐっと頭を抑えられて叶わなかった。



木嶋さんは私の首筋に顔を埋めた。



くすぐったさと温かさで、胸がさわさわした。





「こんな中途半端な気持ちのまま、皆原さんのこと抱きたくないから。だから今はーーー待っていて欲しいとしか言えない」





それは・・・・どういう意味だろう?




木嶋さんは付き合い始めるときに、私のことを好きになる努力をしたいと言っていた。



その努力は今までも、そしてこれからも先も続けていくということなのだろうか?




もちろん好きになってくれたら嬉しいけれど、正直あまり期待はしていなかった。だって浅見先輩に向けていたあの感情と同等のものを私になんて、想像もできなかったから。



だけど無理だと自覚しながらも、それでも木嶋さんは私を好きになろうと、この半年間ずっと頑張ってくれてたのかな。



浅見先輩と同等の大きさのものじゃなくても、せめて同じ種類の想いを持とうとしてくれているのかな。



そして諦めることなくその努力を、この先もまだ続けてくれようとしているんだーーーー






「・・・・私、待ちます」






目頭がぎゅっと一気に熱くなった。



嬉しいのか、悲しいのか。



対局にある感情にもかかわらず、自分でもどちらなのかよくわからなかった。




わからないけど、無性に泣きそうになって。






「いつまでだって私は待てますから。



・・・・だから、無理はしないでください」






だけど今は泣いてはいけない気がして、涙が溢れないように必死に堪えた。




本当に、無理しないで。



木嶋さんのその気持ちだけで十分だから。




努力した結果がどうなろうとも、私はすべてをちゃんと受け入れるから。




だからどうか無理はしないで。



私のことで苦しんだりしないで。





木嶋さんは「ありがとう」と言って少し笑った気がした。



木嶋さんからこの手を解かないかぎり、私はずっとそばにいる。



だけどもしもその時が来たならば、私は素直に応じるから。

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