第151話

簡単には離れていかないようにと、木嶋さんの首に自分の腕をしっかりと絡めた。



抵抗されないことをいいことに、触れるだけのキスを、角度を変えて繰り返す。





すると突然、





「・・・・っ」





私の薄く開いた唇の隙間から、木嶋さんの舌が割り込んできた。



驚いて身を引きそうになった私の舌を、器用に絡めとる。



私もすぐにそれを歓迎するように、木嶋さんに触れていた手に力をこめた。






もっと深く、もっと私に触れて。




お互いの乱れた吐息には、アルコールが混じっていた。









木嶋さんの瞳はずっと閉じられたままで。





だからそこに私が映ることはないのだ。




ーーー絶対に。







それを意味する現実に胸が痛まないわけじゃないけど、だからこそ成り立つ行為なのだと自分に言い聞かせる。



相手に感情などなく、ただ欲に溺れただけの行為だとしても。



それでも私の心は今喜びに震えている。




愛する人とのキスが、こんなにも気持ちのいいものだなんて知らなかった。



きっとこれほどの快感は、この人以外ではもう2度と味わえないだろう。









「・・・・んんっ」




仕掛けたのは私なのに、あっという間に翻弄されてしまった。




木嶋さんにも夢中になって欲しい。



何もかもを忘れて、ただ私にーーー・・・・











けれど、






「ーーーごめん」






やがてゆっくりと離された唇。



まだ熱を帯びたそこに、代わりにひんやりと冷たい空気が掠めた。





「どうして・・・・」




どうしてやめるの?



それに、




「どうして謝るんですか・・・・?」



「こんなふうに君に触れるつもりじゃなかったのに、思わずがっついちゃったから。ごめん」



「がっついていいんです!がっついて欲しくて私から誘ったんです!」





木嶋さんは“私”に触れたわけじゃなかった。



木嶋さんのオスの部分が、目の前で誘惑してきたメスをただ本能的に求めただけ。




私だからじゃないーーー




だから木嶋さんは謝ったのだ。



だけどそれでも私は構わないのに。

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