第146話
半年、と言っても、その間も頻繁に会っていたわけじゃない。木嶋さんの仕事が忙しくて、週に1度会えれば良い方で、月に2〜3回のペースだった。
けれどそれは初デートのときに言われていたことだから、私は承知の上だった。
どうしても仕事を優先せざるを得なくて、それも今まで付き合った彼女達に愛想を尽かされてしまった一因になったそうだ。
木嶋さんも彼女達に気持ちがなかったから、引き留めることもしなかったのだと。
木嶋さんはワーカホリックと言っても過言ではなく、けれど仕事が好きだということもわかっていた。
だから私は仕事でほとんど会えなくたって、そんなことで絶対に文句を言ったりしない。
それにもし言ってしまったら、きっと私も彼女達と同じように別れを引き留めて貰えず、関係は即座に終了してしまうのだろう。
そんなこと、絶対にしたくなかった。
もちろん、本音を言えば寂しい。
もっと会いたい。
だけど二度と木嶋さんに会えなくなることを思えば、これくらい容易に我慢できる。
そうしてなんとか半年間続いている付き合いだけどーーーー
私だって不安がないわけじゃなかった。
正直、不安だらけだった。
だから悩んで悩んで悩み抜いた末に、私はついに自分から手を伸ばしてしまった。
「お仕事、お疲れ様です」
「こんな時間からでごめん。晩飯だけのデートばっかりだよな最近」
「全然!そんなこと気にしないでください」
私は笑顔で首を横に振った。
半年経った今でも、木嶋さんに会えるだけで全身で感じてしまう喜びは変わらなくて。
・・・・だけどもう一方で、どうしても変えたいと切実に思う現状があった。
その日は土曜日で、木嶋さんの最後に立ち寄るクライアント先の最寄りの駅で待ち合わせすることになっていた。
時刻は19時を少し過ぎたところだ。
「皆原さん、この近くでどこか行きたいお店があるってこの前電話で言ってなかった?」
「あの、そうだったんですけど、実は」
木嶋さんの真剣に耳を傾ける姿にずきんと胸が痛みながらも、すでに決意していた内容を口にした。
「さっき土曜日だし一応予約しておこうと思ってそのお店に電話したんですけど、すでに今夜は満席らしくて。
だからあの、・・・・今日はうちに来ませんか?」
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