第145話

「今日も思ってた以上に楽しかったし」



「え!ホントですか?!」




驚きのあまり思わずボリュームが上がる。




「皆原さんとならきっと一緒にいても気負わずにリラックスして過ごせそうだなとは思ってたけど、本当にそうで水族館も純粋に楽しめた。けど・・・・そうは見えなかったかな。ごめん、俺ってそういうの顔に出にくいみたいで」





確かに、わかりにくい。



つまらなそうに見えたわけじゃなくて、いつだってそつのない綺麗な笑みを浮かべている木嶋さんは、感情が読み取りにくいんだ。



私は木嶋さんの高校時代のーーー浅見先輩と一緒にいる時によく見せていた、あのくしゃりと崩した笑みを知っているから。



その笑顔を今日も一度も見れていないから、余計にそう思ったのかもしれない。




職業柄、いつのまにか感情を表に出さない術を身につけてしまったのか。それとも過去の恋愛がそうさせたのかはわからないけれど。



ここにいる木嶋さんはあの頃とは少し変わってしまったのかもしれない。



だけどそれでも、浅見先輩への想いだけは今もずっと変わらないままでーーー






「楽しかったのなら良かったです。きっと私そのうちに、木嶋さんのその些細な表情の変化にも気づくようになりそうですよ」



それはこれからももっと一緒に過ごせれば、という意味で。


これくらいの想いの伝え方なら許されるかな。




それに対して木嶋さんも、





「・・・・うん、そうだね。皆原さんなら気付くようになりそうだね」





その権利を認めてくれたように笑ってくれた。




木嶋さんが私といて少しでも癒されるなら、それって木嶋さんの中できちんと私という存在意義を見い出せているってことでしょう?



それならば、私は十分幸せだよ。






「・・・・この後どうしようか?夕食も帰りにどこかで食べて行こうか?」



「はい!」





木嶋さんに気持ちがなくても、こんなにも私が木嶋さんのことを好きだから。



見返りなんて求めない。



ただ貴方がほっと癒されてくれたらと、まるで綺麗事のようなことを本気で思った初デートだった。




そうして手探りで、ただ純粋に次を繋ぎとめていくような付き合いが半年ほど続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る