第144話

「そのイルカ、皆原さんにちょっと似てて可愛いよね」




「え・・・・」






ふわふわの白イルカの頭を撫でていた手をぴたりと止めた。







ーーー似てるって。




・・・・イルカに?





ぬいぐるみを目の前まで持ち上げて、まじまじと見つめる。実際のイルカもこの子も、つぶらな瞳がチャームポイントだ。





・・・・確かに可愛いよ、イルカはね?




けどだからって似ていると言われても、それって素直に喜んでいいものなのかな。



もちろん自分でも自覚はしてるからいいけど、美人という意味では決してないよね。




似てるって・・・・目が小さいところかな?






「そんなこと言われても困るよね」





私の複雑な心境を察したのか、隣で木嶋さんがくくっと笑った。





「ごめんね。似てるって言ったのは顔じゃなくて、雰囲気だよ」




「雰囲気、ですか?」




「うん、癒やし系だよね、皆原さんって。一緒にいると心が安らぐというかほっとする」





え・・・・




「正直言うとね、職場で皆原さんに会う度にそう思ってた。どんなに疲れてても皆原さんの顔を見たら心が少し和らいで。いつからか皆原さんに会えるのが楽しみになってたんだ。だからかな、付き合ってみようと思ったのは」






ーーー知らなかった。



木嶋さんがそんなふうに私のことを見ていてくれてたなんて。



木嶋さんにとって私なんて、クライアントである会社のただの一社員程度にしか認識されていないと思っていたから。






「ごめん、動機が不純だよね。本当は皆原さんと同じ気持ちを返せたら良かったんだけど」



「そんなっ」





そんなことない、絶対にないよ。



だからそんな申し訳なさそうに謝ったりしないで。




私は白イルカの体をぎゅっと強く握った。





「十分なんです!そう思ってもらえていただけで嬉しいです、すごく」





本当に、本当に嬉しかった。



そこに恋愛感情はなくても、私と会うことで少しでも癒されていてくれたのなら、こんなにも嬉しいことはないよ。



木嶋さんの気持ちが私と同じ種類のものではなくても、この時の私は十分満たされていた。




確かに満たされていた、はずだった。

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