第143話

興奮して語尾を強めた自分の言葉に、はっとした。



恐る恐る隣を伺うとタイミングよくまた信号で車が停車していて、木嶋さんが私を見つめていた。



最初は大きく丸く開いていたその瞳が、徐々に細くなっていく。



やんわりとだけれど、それは困ったような笑みに見えた。





・・・・私ったら、何を言ってるんだろう。





私たちはお互い想い合っている普通のカップルと違うのに。




お気楽な付き合いをしようと言ったのは私だ。



それなのに、こんな好き好きアピールを一方的にされても木嶋さんを困らせるだけだった。




こうして木嶋さんのほうから連絡してくれて、律儀にデートにまで誘ってくれただけで、私は満足しなきゃいけなかったんだ。



私のことなんてそのまま放置することも出来たのに、木嶋さんは本当にやさしい人だと思う。



そんな木嶋さんと少しでも長く一緒にいたいのなら、これ以上自分の気持ちを押し付けてはいけない。



私との付き合いを、絶対に負担に感じさせてはいけないんだ。




・・・・気をつけなきゃ。




















「皆原さんって、水族館に来たのはいつ以来だった?」



「家族で来たのが最後だから・・・・小学生のとき以来でしょうか」




昔付き合った彼とは、水族館でデートしたことはなかった。




「そっか。久しぶりだったから、それであんなにテンション上がってたんだね」



「え・・・・!私そんなにテンション高かったですか?」



「そんなにはしゃいでたわけじゃないけど、目がきょろきょろ、キラキラ忙しそうにしてて、楽しそうだったよ」




・・・・感情を必死に抑えようとしてたけれど、バレバレだったんだ。



木嶋さんの言う通り、すごく楽しかった。



水族館が久しぶりだったことよりも、やっぱり好きな人と一緒にいることが、緊張はもちろんしつつも嬉しくて楽しくて・・・・幸せだった。



だけど、それを素直に伝えたりしないから。






「そうですね。久しぶりだったので、すっごく楽しかったです」




私は様々な感情を振り切るように、笑って答えた。




「それに・・・・こんなものまで買って貰っちゃってありがとうございます」





私の膝の上にちょこんと乗せられた、白イルカのぬいぐるみ。



お土産屋さんで可愛いなぁと手に取っていたら、木嶋さんはそれをひょいっと取り上げるとそのままレジへと持って行ってしまった。



そして支払いを終えたそれを、「はい」とスマートに私の手元に戻したのだ。




・・・・この人は。



これ以上私に惚れさせてどうするんだろう。



困るのはあなた自身でしょう?




そう思いながらも本当の彼女になったみたいでやっぱり嬉しかった。

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