第141話

「水族館でよかった?」



「へ?」



「行き先、俺が勝手に決めちゃったけど」








あ・・・・、今日もまだ“俺”のままなんだ。



運転中の木嶋さんをちらちらと覗き見ながら、緩みそうになる頬を何度も抑える。





ベージュのチノパンに墨黒のシャツというシンプルな服装だけど、顔もスタイルも良い木嶋さんにすごくよく似合ってる。



仕事中はいつもスーツだし、高校時代もブレザーの制服姿しか見たことがなかったから、私服を見るのも初めてだった。




木嶋さんの車を見るのも、乗るのも、もちろん初めてで。




・・・・やばい、心臓の音がうるさすぎる。






「皆原さん?」



「へ?」



「・・・・大丈夫?顔、真っ赤だけど」





車は信号で停車していて、木嶋さんはサイドブレーキを引いたあと私の顔を覗き込むように一瞬ぐっと近づいた。



それもきっと無意識に。





「・・・・・・っ」




私は顔の半分を片手で隠しながら、体を仰け反らせた。




「だ、大丈夫です・・・・!ちょっと緊張しちゃってて・・・・っ」




国産のそこそこ大きいはずのSUV車なのに、助手席と運転席の距離ってこんなに近かったっけ?ってくらいに木嶋さんが近い。近すぎる。



呼吸するたび木嶋さんの匂いまでする気がして、もうくらくらする。





「皆原さんってこんなに面白い人だったんだ」



「え?!お、面白い・・・・?」



「うん、想像と違ったな。もちろんいい意味でね。おかげで俺も今日皆原さんに会うまで緊張してたけど、ちょっと和らいだな」



「緊張してたんですか?!木嶋さんが?」




全然そんなの微塵も感じなかった。


仕事の時とまったく変わらず、いつもと同じ冷静沈着な木嶋さんにしか見えないんですけど。





「そりゃ緊張するよ。初デートだし」





初デート・・・・。



そっか、今日ってやっぱりデートって認識で合ってるんだ。




ーーーということは。



木嶋さんと私は恋人同士になったってことで間違いないんだよね?

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