第140話
木嶋さんは探るような瞳で、私をじっと見つめていた。
その視線に挑むように私も見つめ返す。
握りしめた拳が小刻みに震える。
ーーー・・・・そして。
「本当にいいの?」
「えっ・・・・」
「こんな俺と付き合って、後悔しないの?」
ーーーーそれって。
それってもしかして・・・・・・
「し、しませんっ」
付き合ってくれるって、こと・・・・?
「・・・・努力はするつもりだよ。皆原さんのことを好きになれるように。けどそれでもやっぱり皆原さんの気持ちに応えられなかったときに、君は傷ついたりしないの?」
まだ迷いがあるのか、木嶋さんの瞳が不安げに揺れた気がした。
私は深く、強く頷いた。
「あのっ、努力なんてしないでください!私は絶対に傷ついたりしませんからっ。本当にただ私と一緒に過ごしてくれるだけでいいんです。それだけで十分なんです!」
努力なんてしたって、人間そんな都合よく恋愛感情なんて湧かないことはわかってる。
頑張れば好きになりたい相手を好きになれるのなら、みんなもっと楽に恋してる。
木嶋さんだってとっくに他の女性と幸せになれているはずだ。
木嶋さんがどれほど浅見先輩を好きだったか、少なくとも今まで木嶋さんが付き合ってきた女性たちよりも私は理解しているはず。
そして木嶋さんが浅見先輩を想うくらいに、私は木嶋さんのことが好きだから。
もう2度と会えなくなることを思えば、木嶋さんが私に気持ちがなくてもそばにいてくれる方が絶対に幸せで。
だから浅見先輩を忘れられない木嶋さんごと全部、私は愛せる自信があった。
少なくともこの時はーーーーそう信じて疑わなかった。
木嶋さんの迷いが消えることを願って、はっきりと口にした。
「好きになって欲しいなんて望みませんから」
私はもう一度笑った。
その言葉に嘘はなかった。
この時は本気でそう思ったんだよ。
そうして私は木嶋さんとお付き合いすることになり、その場でお互いの連絡先を交換した。
寝不足だというのに、その夜もまた眠れなかった。
まさかあの“穂高先輩”の彼女に、この私がなれるなんて。
そんな驚きと喜びと興奮と。
少し、ううん。かなり強引すぎた・・・・?
好きになってもらわなくていいって言っちゃったけど、さすがに嫌われたくはないし。
木嶋さんの方が今ごろ後悔してたりして。
明日やっぱ無理ですって断りの連絡が来たらどうしよう。
・・・・そんな不安と恐怖心までもが同時に発生して、ぐるぐるぐるぐる頭は回って。
このまま一生眠れないんじゃないかと本気で思った夜だった。
私の心配をよそに、翌日もその翌々日もずっと木嶋さんからはなんの電話もメールも届かなかった。
連絡が初めてあったのは、1ヶ月近く経ってからだった。
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