第139話
「俺だって、さすがに今までずっと1人でいたわけじゃないよ。向こうから言い寄られて何人かの女性と付き合ったこともある。だけどその度にいつも後悔した。けっきょく俺は彼女以上に愛せなくて、相手を傷つけてしまうだけだったから」
そんな木嶋さんの話を聞きながら、ショックを受けるよりも、私の心にさらに火がついた。
「だから皆原さんもきっと・・・・。皆原さんのことを傷つけたくないんだ」
だって振られた私よりも、もっとずっと苦しそうな顔をしていたのは木嶋さんだったから。
きっと何かどうしようもない事情があって別れるしかなかった浅見先輩のことを、この人は今も想ってる。
あの頃と同じ。
この人が愛おしいのは、浅見先輩だけなんだ。
忘れたくて苦しみながらも、それでも想い続けてるんだ。
「ーーー木嶋さん」
胸の前でぐっと拳を握る。
「やっぱり、・・・・私と付き合ってください」
「え?」
木嶋さんと一緒にいたい。
私のその願い以上にこの人を、その苦しみから救ってあげたい。
ーーーそう思ってしまった。
私なんかに何ができるというのか。
とてもじゃないけど私なんかじゃ、あんな完璧に美しい人の代わりになんてなれるわけないのに。
だけどこの時は・・・・
それでも本気でこの人の為に何かしたいって、思ってしまったんだ。
「そんなに難しく考えないでください」
私はわざとふわりと笑った。
「だってそれじゃ、木嶋はこの先もう二度と誰ともお付き合いしないつもりなんですか?」
「それは、・・・・それもあり得るかもしれない」
この人が負担を感じないように。
「そんなの寂しいじゃないですか。たまには女性と笑いながら食事をしたり、ドライブを楽しんだりしたくないですか?あとは、ほらその、・・・・夜の欲を解消する相手も必要でしょう?」
この人が少しでも癒されるように。
「・・・・何度も言うけど、付き合ったところで俺は彼女以上にきっと君を愛せない」
「私がそれを望んでないって言ってもダメですか?」
「望んでないって、」
「木嶋さんに会えるだけで私は幸せなんです。
あ、でももう少しだけ欲を言えば、木嶋さんと笑い合って過ごせたなら、それだけで満たされると思うんです」
「・・・・皆原さん」
「無理に忘れなくていいですから。私に対してなんの気持ちがなくたって、そのままの木嶋さんでいいんです。私は平気です。だからどうか木嶋さんのそばにいさせてくれませんか?」
少しでもその苦しみから解放されるように。
この人の為に、私に何ができるだろう?
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