第137話

「皆原さん」





木嶋さんが意を決したように、重そうな口を開いた。





「気持ちは嬉しいんだけど、僕は・・・・」




「っ、わかってます!もちろん木嶋さんのお気持ちはちゃんとわかってますから・・・・!」





木嶋さんのその後に続く言葉なんて容易に想像ができてしまった。



だからあえて聞きたくなくて、私は自分の声を慌てて被せた。



木嶋さんの気持ちが私と同じであるなんて、そんなことあるわけないって当然わかっていた。







それでも木嶋さんは、








「ごめんね、皆原さん」








ーーー“私とは付き合えない”と。






優しい声で、はっきりと拒絶したのだ。










「・・・・木嶋さん」





だけどこの時の私は、とにかく必死だったんだと思う。



昔の後悔がそうさせたのか。



自分でも思っていた以上に、木嶋さんのことが好きになりすぎてしまっていたのか。



この時の心境は正直よく覚えていないのだけれど、自分が自分じゃないみたいだった。






「木嶋さんは私のこと、嫌いですか?」




「っまさか。嫌いなわけないよ」



「そうですか・・・・。木嶋さんが私のことを、そういう対象で見ていなかったことはわかってました」





この人の瞳に映る私に、熱を一切持っていないことは知っていたけれど。




それでも。





「私のことを嫌いじゃないのなら・・・・私と付き合ってもらえませんか?」




「・・・・え?」




「もし他に好きな人が出来たときにはそれまででいいんです。お試しみたいな感じで構いません!これからも木嶋さんに会いたいんですっ。だからお願いします!



どうか私と付き合ってください・・・・!」








お願いだから。




今日が最後だなんて、言わないで。






私のことを好きじゃなくても構わないから、木嶋さんにそばにいて欲しい。



こんなにも好きな人と一度でも付き合えたのなら、私はきっと自分の人生は最高に幸せだったと思えるはずだから。




たとえ偽りでも、木嶋さんの彼女になりたい。

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